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もし、今貴方が目の前から消えてしまったら。

私は何処を探せば良いだろう?










いつも通り、配達を終えて帰路に着く。
辺りはもう静けさが漂う真暗な闇が広がる。
早く家に帰ってしまおうと、手綱を強く引こうとしたところで、ふと違和感に気付く。


「家の灯り…点いてる?消し忘れてたっけ?」


どうだっただろうと振り返ってはみるものの、勿論そんなことはなく。
消し忘れ以外の可能性にふと思い当たって、慌てて手綱を握る力を強め、家目がけて急降下した。


「ハールさん!?」


ドアを思い切り開きながら、名前を呼んで家の中に転がり込むように入ると、名前を呼んだその人が、ソファでのんびりとくつろぐ姿が目に飛び込んできた。


「い、いつ帰ったんですか?」


「さっきだ。…ジル、挨拶はきちんと、じゃなかったのか?」


「へ?」


いきなりの言葉に目を白黒させた私に、相変わらず眠そうな瞳が何かを促すように向けられる。
言われた言葉を思い返して、ふと言い忘れていた言葉が何なのかに思い当たった。


「あ、えっと…只今戻りました」


「おう、おかえり」


簡単にそれだけ返すと、ハールさんは、ソファに沈みこんでしまった。
慌てて駆け寄って様子を伺うと、酷く眠たそうな気配がひしひしと伝わってきた。


確かハールさんが行っていたのは遠方への届けもので、戻ってくるのはまだ先の予定だったはずだ。


…もしかして、それを早めて帰ってきてくれたんだろうか?


「…予定より早かったですね、帰ってくるの」


「あぁ、また新しい仕事が入ったからな」


眠たそうな声でそういうと、欠伸を噛み殺す。
随分疲れている様子にため息を零した。


「もしかして、仮眠取ったらまた出掛ける気ですか?」


「ん?…あぁ」


それがどうかしたかとでも言うような様子に、今度は深々とため息を零す。


「そんなんじゃ、身体壊しますよ。ちゃんと休んでからにして下さい」


しゃがみこんで、目線を合わせて言うと、ひらひらと手をふって応えられる。

ホントに分かってるんだろうかと問い詰めようとしたところで、不意にハールさんが起き上がった。


「そういや、俺も言ってなかったな」


「え?」


「ただいま」


ふと告げられたその言葉に、一瞬呼吸を忘れる。
たったそれだけの言葉が酷く嬉しくて、満面の笑みでそれに応えた。


「…おかえりなさい、ハールさん」


言うだけ言ってすっきりしたのか、またソファに沈み込んで、本格的に寝だしたハールさんに近くに転がっていた毛布を掛けて。
そして、そっと寄り添うように体を寄せて、ゆっくりと瞳を閉じた。




…もし、今目の前から貴方がいなくなったら、私は多分広大な空を探すだろう。



それでも、見つからなかったら―…。
この場所に戻ってこよう。


貴方の帰る場所も私と同じはずだから。




END.


この二人に「ただいま」と「おかえり」を言わせたかっただけという俺得話でした(笑)