god bless you─…ずっと、気になっていた。 誰よりも優しく笑うのに、何かを拒むような雰囲気を持っているのは何故なのか。 ふらり、ふらりと今にも鳴りだしそうなお腹を押さえて、廊下を歩いていく。 何か食べようと食堂へ向かっている途中で、見知った顔を見つけて立ち止まる。 「……あ…」 ─ツイハークさん、と呼び掛けようとして、言葉に詰まる。 あまりにも寂しげに、手にした何かを見つめていたから。 何を見ているのだろうと、静かに近づいて、そっとのぞき見る。 キラリと光を反射して、鈍色に輝いていたそれに、目が釘付けになる。 「!イレース」 私の視線に気付いて、ツイハークさんが振り返る。近くにいたなら、声を掛けてくれれば良いのにと言って、いつものように優しく微笑まれた。 そこには先程の寂しげな雰囲気はなくて。 いつもの…優しくて穏やかなツイハークさんがいるだけだった。 「……何、見てたんですか?」 一瞬だけ見えた煌めきがどうしても気になって。 率直にそう尋ねる。 見間違いじゃないなら、あれは──…。 「あぁ…見られてたか。……実は、これを見ていたんだ」 ころんと手の中を転がったのは、予想していたもの、そのものだった。 ─優しい銀色に輝く指輪。 近くで見ると、それがただの指輪ではないことが見て取れた。 「……それ、エンゲージリング…ですか?」 そう言う事に疎い方ではあるけれど、何度か目にしたことがあったものにそっくりで。 そう尋ねた私に、よく分かったねと微笑んで、ツイハークさんは言葉を続けた。 「…亡くなった妻のものなんだ。お守り代わりにしてるんだよ」 ──寂しげな。でも、何処か愛おしげに、指輪を見つめる。 その視線が、言葉が。 どれだけ大事に想っていたかを容易に想像させて、胸が苦しくなる。 「大事に……してるんですね…」 そう呟くように言って、じっと指輪を見つめる。 僅かにくすんではいるものの、良く手入れのされた指輪は大事にされていることを証明しているようだった。 「…そうだね。時々こうして見ているんだ。忘れてしまわないように」 可笑しいだろう?と自嘲気味に笑う姿にふるふると首を横に振る。 「……忘れたくないもの、誰にでもありますから…」 幸せであれば、あったほどきっと忘れられない。 ─…忘れたくないに決まってる。 ──あぁ、そうか。 「…有難う」 そうツイハークさんは小さく言って、手にした指輪をぎゅっと握り、静かに瞳を閉じる。 祈るようなその姿は寂しげで、何かを拒むような雰囲気が確かにあった。 ──この人は、きっと忘れられない幸せな思い出を持っていて。 …その幸せを忘れないために、新しい幸せを拒んでいるんだ。 「…ツイハークさん…。私も一緒にお祈りしても…良いですか?」 「あぁ…。妻も喜ぶよ」 寂しげに笑って、空を仰ぐ姿を見つめながら、そっと願った。 ─…いつか、この人が自分の幸せを求められますように。 そして、出来るなら……。 ──幸せをあげられるのが自分でありますように。 そう願って、静かに空を見上げた。 end. 誰かを亡くした経験ってきっと忘れられないものなんだけど、それを癒してくれるのは「現在」を生きてる人だと思います。 という訳で、イレースがツイハークさんを癒してあげたらいいよ!!ということが言いたかっただけでした(笑) |