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recollection




人の顔を覚えるのなんて、すごく苦手で。


覚えてもすぐに忘れてしまうことだって多いのに。



……それでも。

離れた場所からでもすぐに気付けたのは、きっと貴方だったから。








「イレース!」

名前を呼ばれて振り返ると、先程久しぶりに挨拶を交わしたばかりの相手がいた。
きょとんと首を傾げた私のすぐ傍をツイハークさんの剣が凪いでいき、それと同時に後ろで人が倒れる音がした。

「大丈夫か?」

流れるような動作で、刀身を鞘に納めたのをぼんやりと見つめながら、僅かに首を縦に振る。
目の前の鮮やかな動作に呆然としている私に、ツイハークさんは良かったと微笑した。その顔が直視出来なくて、ふいと顔を逸らす……と同時に、お腹が切なげに声を上げた。

「…あ………」

「お腹が空いたのかい?」

くすりと笑ったツイハークさんに、小さく小さく頷く。
鳴きだしたお腹は当分鳴りやみそうになく、恥ずかしさだけが募る。
少しでも止んで欲しくて、音の発信源を押さえてみたけれど、何の効果もなくて。

がっくりと項垂れた私の肩にそっと、温かな手が添えられた。

「この戦いが終わったら、何か食べに行こうか」

俯いたままの私の耳に、優しく落ちてきた言葉に顔を上げる。

穏やかに細められた目は、静かに私を映していて。

その目が、三年前。無心に食事をする私を見つめていた目とそっくりで。


――酷く懐かしくて笑みが零れた。

―覚えてますか?


――どんな事を話しながら、一緒にご飯を食べたか。


「…イレース?どうかしたかい?」

「何でも、ありません…」


貴方は、覚えていないかも知れないけど。

……私は、覚えてるから。

食べたご飯だけの事だけじゃなくて、話したことも。

一緒に食べながら、じっと私を見ていた貴方の目が酷く優しかったこと。


貴方と話しながら食べるご飯は、何よりもおいしいと感じたこと。



「……ツイハークさんと、ご飯食べるの…久しぶりだから……楽しみです」

「そうだね。…さ、早く終わらせよう!」


こくんと力強く頷いて、前を駆けるツイハークさんを追い掛けた。



――貴方とまた、会えてすごくすごく嬉しいです。



…なんて、そんなこと、口に出して言えないから。



……零れた微笑みに、そっと想いを乗せた。





END



暁の再会シーンの会話があまりに可愛すぎて書いたもの。
イレースはぼんやりしてて恋愛下手な感じがすごくかわいいと思います!!(何力説