Love*きっかけなんて、所詮小さなことに過ぎない、とは言うけれど。 その当事者にとっては、小さいどころか大問題なことだってある。 Love* 食堂は今や「戦場」というに相応しい程の殺気に満ち溢れていて。 我が弟ながら、たくましく育ったものだなんて、見当違いなことを考えながら、オスカーは溜め息を吐いた。 横には今にも泣きだしそうな顔をしたキルロイと、事の成り行きを楽しげに見つめるワユの姿があって。 どちらもこの「戦場」を収めるには、難しそうだった。と言うより、キルロイでは荷が重すぎるし、ワユは止める気すらなさそうで。 ──あぁ、結局止めるのは自分なのか。 …だなんて。自嘲気味笑うと、さっきこっそり自室から持ってきた手槍を握り締めて、「戦場」の中心にいる末弟と参謀を見つめた。 ──…そもそもの発端は、弟─ヨファの何気ない一言だった。 遡ること、ほんの十数分前──…。 「シノンさんって、傭兵団の中で、一番カッコいいよね!」 食事もあらかた終わり、食器を片付けながら、のんびりとお茶を飲んでいた頃。 ヨファが上機嫌に笑いながら、そう私に話し掛けてきた。 きっとまた色々シノンに教えて貰ったんだろう。嬉しそうなヨファを微笑ましく思い、肯定の言葉を返そうとしていた矢先。 普段、滅多に口を開かない参謀──セネリオが断固とした口調で、言葉を放った。 「この軍で一番格好が良いのは、アイクです」 ぴしゃりと言い切った言葉尻は厳しいもので。 何もそんな言い方をしなくても、と言おうとした矢先、隣からむっとしたようなヨファの声が響いた。 「そんな事ないもん。シノンさんが一番カッコいい!」 「っは。あの性悪の何処が格好良いんですか。アイクの格好良さの足元にも及びません」 と言うより問題外です、とさらりと言い放つと、挑戦的な眼差しでヨファを見つめるのが分かって。 険悪な雰囲気になりつつある場をたしなめようと口を開くより先に、ヨファがバンと思いきり机を叩いて、セネリオに食って掛かった。 「断然シノンさんの方がカッコいい!それに、カッコいいだけじゃなくて、可愛いし美人だし、やさしいもんっ!」 「ははっ。そんなのアイクだって、素直で可愛らしいですし、真っ直ぐな性格で何処ぞの弓使いみたく捻くれてませんし、器の大きさだって桁違いです」 「シノンさんはひねくれてなんかないもん!」 「誰もシノンの事だとは言ってないでしょう?」 は、と嘲笑を浮かべるセネリオに、完全に押されてしまっているヨファは、ぐっと悔しそうに押し黙って。 それで、この場はとりあえず収まるかと心の中で安堵の溜め息を吐いた瞬間、勢いよくヨファが声を発した。 「でもっ!僕の方がシノンさんを好きな気持ちは勝ってる!!」 ──おいおい、それは見当違いな答えだろう。 思わず心の中で入れたツッコミとは裏腹に、ヨファは真剣そのもので。 そんなヨファに、セネリオは嘲笑を浮かべると、声高らかに宣言した。 「そんなもの…。僕のアイクを想う気持ちに比べたら問題外です」 「そんな事ないっ!絶対負けてないもん!」 「絶対に負けてます。僕が負けるはずないでしょう」 そう言い切って、自信満々に口角を上げたセネリオは完全にいつもの冷静さを欠いていて。 ──あ、これは駄目だ。 はは、と乾いた笑いが自然に零れてきて。 両者睨み合ったまま、一歩も引きそうにない様子に溜め息を零すと、争いを止める為に必要になるだろう武器を取りに立ち上がったところで、またヨファの声が食堂中に響いた。 「絶っっ対に負けてないっ!!僕の方がシノンさんを好きな気持ちは大きいもん!」 「大きくても浅くては意味はありませんよ。僕のアイクへの想いは海のように広く、深い愛なんです」 「僕だってそうだもん!絶対、絶対僕の方が勝ってる!」 再び勃発した終わりのない争いを聞きながら、私は食堂を後にした。 そして、武器──手槍を手に帰ってきてみれば、食堂を後にした時と変わらず、言い争いは続いていて。 いつの間にか出来ていたギャラリーのキルロイとワユに、乾いた笑いが漏れて。 深々と溜め息を吐いて、心の底から思った。 ──早く帰ってきてくれ。アイク、シノン。 そう心から切に願って。 二人が帰ってくるまでに少しでも争いを静めるべく、手槍を握る手に力を込めた。 end. ヨファとセネリオの大好きな人自慢大会……のはずだったんですが、とんだオスカー兄さんの受難話になりました(笑) あれ?おかしいな、そんな予定じゃなかったのになorz ちなみに。 アイセネかセネアイかと聞かれれば、迷わず後者ですと答える涼翅がお送りしました。←← どマイナー…!自分ホント馬鹿! そして、めっちゃ好きに書いた乱文にお付き合い下さいまして、ありがとうございました! 2010.10.27 |