Agapanthusふとした仕草に、表情に。 心臓が壊れたみたいに、早鐘を打つ。 「わたし、大人っぽくなったと思う?」 「はァ?」 不意に掛けられた問いに、思いきり眉をひそめてみせると、みるみる内にミストの頬が膨らんだ。 「ちょっと何よ!そんな顔しなくても良いでしょ!」 むっとした表情で反論する様子は、子どもっぽくて。とてもじゃないが「大人っぽい」とはかけ離れていた。 「誰がそんなこと言ってたんだ?」 誰がそんな奇特なことをと興味半分でそう問い掛けると、まだ少し不機嫌の残る声で、短く答えが返ってくる。 「…マーシャさん。しばらく会わない内に大人っぽくなったねって」 「へぇ」 確か今はクリミアの騎士として仕えていたはずのマーシャを思い出しながら、相づちを打つ。 大人っぽくなったというなら、よほどマーシャの方がそう見えるような気がするもんだが。 ─マーシャから見たミストは、俺から見たよりどれだけ大人っぽくなったように見えたんだろうか。 そんなことをぼんやりと考えていると、遠くから不意に名前を呼ぶ声が聞こえた。 「ミスト!」 「あ、ジルだ。ちょっと行ってくるね」 ぱたぱたと遠ざかる足音を見送りながら、ぼんやりと少し離れた場所の光景を見つめる。 久しぶりに会ったデインの友人──ジルと話すミストは、さっきの不機嫌とはうってかわって、ご機嫌なようで。 見ているこっちが釣られてしまいそうになるくらい楽しそうに笑っていた。 昔からちっとも変わらない笑顔で話す様子は、やっぱり変わったようには思えなくて。 さっき言ったような「大人っぽさ」はない。 「やっぱ、まだ子どもだよな…」 ぽつりと零れた言葉は本心のはずだけど、何か心に引っ掛かるような感じがあって。 ふっとため息まじりに吐息をついた。 ──前の戦いから三年。 確かにミストは変わったと思う。 背も伸びたし、髪も伸びた。料理の腕だって上がったし、裁縫の腕だって、今では服を繕ってくれるほどに上手くなった。 おかげで、服をしょっちゅう買わずに済んでるし、助かってるのも事実だ。 ─…けど、変わらないところだってある。 団のみんなを心配して泣くことだってあるし、みんなとあまり離れたがらないところだって変わらない。 それに、何よりも──…。 「ボーレ?」 いつの間にか戻ってきていたらしいミストの声が聞こえて、反射的に声の方に視線を向ければ、すぐ近くに大きな青の瞳があって。 俺を不思議そうに見つめるその仕草は変わらないのに──…どうしてだろうか。 「ちょっと、ボーレ?どうかした?」 「…なんでもねぇ」 「ヘンなの」 そう言って、ふっと笑うミストの笑顔は昔と変わらないのに、どくんと胸が大きく鼓動する。 ──…ふとした仕草も笑顔も何も変わらないのに。 陽の光を受けてきらきらと透ける小麦色の髪や吸い込まれそうな空色の瞳に。 ─俺を見上げる仕草や笑うその笑顔に。 ……時々、壊れたみたいに心臓が早鐘を打つ。 end. 花言葉からイメージして書いた文です。 恋の始まりはいつでも突然なもんです(何) 【Agapanthus】 花言葉:恋の訪れ |