useful days朝起きて、おひさまを浴びて、みんなとあいさつして。 ―そんな当たり前のことを幸せだなんて思わなかった。 …あの日が来るまでは。 「…んん」 カーテンから漏れる光に身を捩る。布団を頭から被ってもまだ少し眩しくて。 随分、陽が高くなっていることに気付いて、慌てて跳ね起きる。 「大変!お父さんに起こられちゃうっ!」 反射的に口を突いて出た言葉に、寝呆けていた頭が途端に鮮明になる。 わたし、何言ってるんだろう…。 ―…そうだよ。だって、お父さんは、もう…。 「……お父さん…」 じわっと目に浮かんできた涙が邪魔で、手で拭う。 みんなが心配するから、あんまり泣いてちゃ駄目だって分かってるのに、拭ったばかりの瞳から、じわりと涙があふれた。 「………」 「ミスト?」 コンコンと軽いノックの後、躊躇いがちに扉が開く。 慌てて涙の残る頬を拭くと、入ってきた方に笑顔を向けた。 「どうかした、ボーレ?」 いつもは勢い良く入ってくるのに、と冗談めかして言うと、ボーレは困ったように頭をガリガリと掻いた。 「いや…。あんまり起きてこねぇから、どうしたのかと思ってさ」 「ただの寝坊。寝すぎちゃった」 おどけて笑ってみせると、困ったような顔から、むっとした表情になる。 怒らせるような事をしたかなと思い、口を開きかけたところで、ぐいと引き寄せられ、抱き締められた。 「ちょっ、ボーレ?」 苦しいよ、と言ってもただぎゅっと抱き締められるだけで、離してもらえそうもなくて。 困ってため息を零すと、ぽんぽんと頭を撫でられた。 「…無理して笑わなくても良いんだよ。泣きたい時には泣きゃ良いんだ」 「…ボーレ…」 「辛い時は甘えろよ。俺たちは、家族だろ?」 ボーレの言葉は真っ直ぐで。わたしの心にすとんと落ちていくみたいで。 途端に、心配かけちゃダメだとか、いつまでも泣いてちゃダメだって気持ちが溶けていって。 気付けば、ぽろぽろと涙が溢れていた。 「…ねぇ、ボーレ」 ―ひとしきり泣いた後、ずっと抱き締めてくれていたボーレにぽつりと呼び掛ける。 「どうした?」 「おひさま、あったかいね」 窓から射し込んでくる光を見つめながら、そう言葉を紡ぐ。 射し込んでくる光は、酷くおだやかで、あたたかで。 そして―…。 「…ボーレも、あったかいね」 そう言うと、そっと頭を撫でてくれて。 その手が、やさしくて、ただただあったかくて。 気付いたら、ぽろりと涙がこぼれた。 ―…朝起きて、おひさまの光を浴びて、みんなにおはようのあいさつをして。 …そうやって、当たり前の幸せな一日が、今日も始まる。 end. ミストちゃんはグレイルさんが亡くなってから「当たり前」のことをすごく大事にしそうだなと思ったので。 当たり前って一番代わり映えはしないけど、しあわせな事ですよね。 |