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シェイク ア ハンド








ぱっと手を開くと、手のひらをじっと見つめる。視線の先にある手のひらはお世辞にもキレイとは言い難い。剣だこは出来ているし、切り傷のついた指先は女の子というよりも、「剣士」の手だ。

「いや、良いんだけどさ」

誰に言うでもなく呟いて、手をぐっと握り締める。それを合図に、手のひらを見つめていた視線を空へと放る。澄み渡る青空が眩しい位に輝いて、視界を一瞬にして青で埋めた。

自分の心とは裏腹に、天気は快晴だ。それが何だか慰められているようで、嬉しいような悲しいような気持ちになって、小さくため息を零す。

別に、気にしてないもん。

口に出さずに心の中で呟いたその言葉は何だか強がりみたいだ。視界に映る青空とは別に、先ほど見た友人の手を思い出して、もう一度自分の手のひらを見つめた。
最近、よく話すようになった友人──イレースの手は透けるように白く、指先も綺麗だった。まるで人形のようなその手は、か細く頼りなくて、守ってあげたいと同性である自分も思ってしまうような、そんな綺麗な手だった。それを脳裏に浮かべたまま見比べた自分の手のひらは、イレースとは全く違っている。か細く頼りない、だなんて真逆もいいところだし、透けるように白かったイレースとは違い、陽に焼けた健康的な色をしている。

やっぱり女の子の手、というよりも剣士の手だと、嬉しいような悲しいような複雑な気分で自分の手のひらを眺めた。

別に女の子らしい手になりたいという訳ではない。ただ、少しだけ憧れるのだ。
守りたいと思わせるような柔らかくか細い手。それは、一流の剣士を目指している自分には得られないものだから。一流の剣士になるにはまだまだ訓練を重ねて、もっともっと剣を振らなければならないし、手合わせだってしていかないといけない。それは当たり前のことだし、強い剣士になることは自分の望みでもある。だから、むしろ女の子らしい手からかけ離れていることは、自分が剣士としての努力を重ねてきた証拠そのものだと思うけれど、それが少しだけ悲しく感じた。

もし。─…もし、剣士を目指していなかったら。普通の女の子だったら。イレースのような可愛い女の子らしい手になれただろうか。


「そういう手の方が、キルロイさんも好き、だよね…」

ぽつりと無意識に零れていた言葉に、自分ではっとする。強い剣士になりたいという気持ちは決して嘘じゃないのに、いくら運命の人だからと言って好かれたいと思うだなんて。

そんな自分が恥ずかしく思えて、こうなったらこんな考えを振り払ってしまおうと剣の柄に手をかけたところで、後ろから聞き慣れた優しい声が響いた。

「ワユさん」

振り返らなくても、誰かなんて分かっていたのだけれど、気付いた時には反射的に振り向いていた。そこには、今まさに忘れようとしていた運命の人がにこやかに笑って、軽く手を振っていた。

「キルロイさん」

向けられた笑顔に笑い返すと、じっと手の方を見つめられる。あたし何かしたかな、と記憶を辿ろうとしたところで、キルロイさんの柔らかな声が耳に響いた。

「手、見てたけど怪我したの?」

心配そうにそう言われて、手をそっと握られる。触れ合った指先から、キルロイさんの熱が伝わってきて、顔が熱くなるのが分かった。

「大きい傷はないみたいだけど……」

まじまじとあたしの手を見て呟いたその言葉に恥ずかしさが込み上げる。大きい傷は確かにないけれど、小さい傷はたくさんある。
それを見られるのが恥ずかしくて、慌てて握られたみの手を後ろに隠した。

「う、うん!怪我とかしてないからさ!」

心配しないでと笑うと、キルロイさんは安心したように微笑んだ。

「なら、良かった。でも、小さい傷はたくさんあるね」

指摘されたその言葉にずきんと胸が痛む。後ろ手に隠してしまった手をそっと開いて見つめると、小さい傷と剣だこが目立つ手のひらが目に飛び込んできて、ぱっと視線を外した。

「剣握ってばっかりだから、生傷が絶えなくてさ!女の子らしくないよね」

あははと誤魔化すようにそう笑ったあたしをキルロイさんはじっと見つめて、ふわりと笑った。

「…僕はワユさんの手、好きだよ」

言われた言葉が上手く飲み込めなくて、きょとんとした顔で固まっていたあたしの手を、キルロイさんはそっと包み込むように優しく握りしめた。

「ワユさんが頑張ってるのが分かるから」

だから、好きだよと囁く声が優しく耳に、全身に響いていく。
あたしの手は傷だらけで、イレースのような綺麗で女の子らしい指ではないけれど、それでも良い。貴方が好きだと言ってくれるだけで、悲しく思っていたことさえ、忘れちゃうんだよ。

そっと、宝物を守るようにキルロイさんの手に包まれた手が酷く誇らしく思えて、気付けば自然と笑みが零れていた。



end.







竹刀を握ってた経験を生かして書いてみました。剣だこというか、竹刀だこ?が良く出来たものでしたので。
ワユさんもきっとそういうのあるんだろうなー、そういう手を気にしてたら可愛いよね!というお話でした。

ココア様にこっそり捧げます。ありがとうございました!


2011.1.28