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本日ハ晴天ナリ





空から照りつけてくる日差しは強いが、小川の流れる音が耳に涼やかだ。
傭兵団の拠点としている砦を出て、森を抜けた先にある小川に人気はない。静かで落ち着いた雰囲気の河原に腰を下ろすと小川の中で水と戯れている想い人を見つめた。

「キルロイさーん!水、冷たくて気持ち良いよ!」

はしゃいだ様子の声と、ぶんぶんと勢いよく振る手に、微笑みながら手を振り返す。それに満面の笑顔で応えたワユさんは再び小川の水と戯れ始める。太陽の光を受けて、きらきらと輝く水しぶきが眩しくて綺麗だ。けれど、ワユさんの笑顔もそれに負けない程に綺麗で、思わず笑みが零れる。

…こんなに輝いて見えるのは、想い人故の欲目だろうか。
そう思うけれど、視界に写るワユさんは心から楽しそうに笑っていて、まるで幼い子どものようにも見える。それが酷く愛おしく思えて、そんな自分の贔屓目にくすりと苦笑を漏らした。

「キルロイさん?」

「!」

少し前まで目の前の小川に居たはずのワユさんの声が近くから聞こえて、びくりと身体を強張らせる。何時の間にか小川から上がって来ていたらしい。ワユさんは足から水を滴らせながら、真っ直ぐに僕を見下ろしていた。

「キルロイさんは入らないの?」

にこにこと上機嫌に笑うワユさんに微笑むと、首を緩く横に振る。入りたい気持ちがない訳ではなかったが、小川は思いのほか冷たい。幼い頃、涼むつもりで川で遊んで、そのせいで風邪を引いた経験が思いだされて、苦い表情になる。

またあの時のように風邪を引いてしまうものなら、ワユさんに気を遣わせてしまう事になるだろう。それが申し訳なくて、入ろうと言う気持ちになれなかった。

「僕はここにいるから、涼んできていいよ」

気にしないで、と笑った僕にワユさんは少し考えるような表情を浮かべて、じっと僕を見つめる。気にしないでとは言っても気にしてしまうだろうかと何か言おうと口を開き掛けた所で、ぱっとワユさんは笑った。

「…分かった!じゃあ、ちょっと待ってて!」

「えっ?」

待ってて、の意味が分からずに首を傾げた僕を置いて、ワユさんは小川へと駆け出していく。何をするのだろうと後ろ姿を見ていると、ヘアバンドを外している姿がちらりと見える。外したヘアバンドを持って暫くしゃがみ込んだ後、ワユさんは後ろ手に何かを隠したままで僕の元へと戻ってきた。
その表情はさきほどと変わらず、きらきらとした笑顔だ。その笑顔の意味が分からず、相変わらず疑問符を浮かべたままの僕に、ワユさんは後ろ手に隠していたものをぴたりと僕の頬に当てた。
瞬間、ひやりと冷たい感触が頬に伝わってきて、思わずびくりと身体を強張らせる。反射的に短く息を飲んだ僕を見て、ワユさんはごめんねと小さく笑った。

「あ、冷たかった?座ってるだけだと暑いかなって思って」

ほら、と言う言葉と共に見せられたのは、ワユさんがいつもしているヘアバンドだった。川の水に浸したらしく、冷たく冷えたそのヘアバンドを、ワユさんは再び僕の頬へと当てた。ひんやりとした感触が陽射しで暑くなっていた頬の熱をじわりと吸い取っていく。

「…冷たくて、気持ち良いね」

ひんやりとした感触の心地良さに自然と頬が綻ぶ。ワユさんに微笑みかけると、ワユさんは少し顔を赤くして嬉しそうに笑った。

「えへへ…。良かった」

「…ワユさん」

嬉しそうに顔を綻ばせるワユさんの名前を呼ぶと、頬に添えられた手を上からそっと握りしめる。
一瞬驚いたように目を瞬かせたワユさんの顔に、そっと自身の顔を寄せる。そして、そっと触れるだけの口づけを贈ると、耳元で囁いた。

「ありがとう、ね」

「!!」

身体を離すと同時に視界に映ったワユさんの顔は驚くほど真っ赤に染まっていて、思わず笑みが零れる。そんな僕にワユさんはますます顔を赤くすると、僕にヘアバンドを押し付けて勢いよく立ち上がった。

「あ、えっと!暑いから涼んでくるね!」

真っ赤に染まった顔のままそう言うと、ワユさんは小川へと真っ直ぐに駆けていく。その後ろ姿を見送りながら、渡されたヘアバンドを頬に当てる。冷たく心地良い感触から伝わってくるのは、自分を気遣ってくれたワユさんの優しさだ。その優しさが嬉しくて、視界の先にいる想い人への愛しさが胸に溢れて、気付けば笑みが零れていた。



end.





カカオ様との相互記念に書かせて頂きましたキルワユでした。
夏っぽい二人!という事で小川で遊んで頂きました← きっとワユさんはいつまでたっても無邪気なんだろうなぁと思いつつ。

リクエスト&お付き合いありがとうございました!


2011.10.7