繋ぎ遊び…落ち着かない。 何度も心の中で繰り返したその言葉を、声に出さずに呟く。辺りはいつもと同じで人通りも多く騒がしい。 賑やかな街の喧騒の中に交じって、市場の人の掛け声も聞こえてくる。 新鮮な果物の甘い匂い、チーズの芳醇な香り、焼きたてのパンの香ばしい香り。 いつもだったら、その香りに引き寄せられて、ふらふらと店の方まで行ってしまう香りだ。そして、そんな私の行動を、いつも買い出しに付き合ってくれるララベルさんやルキノさんに怒られるのだが、今日は違っていた。 先ほどから人混みに揉まれて、はぐれそうになりながらも、必死にその後ろ姿を追いかけていく。陽の光を受けてキラキラと光る銀の髪は綺麗で、見惚れてしまいそうになる。 そして、そんな風に目の前の人に意識を集中させているせいか、いつものようにふらふらと店に引寄せられるということはなかった。 「……っ」 どん、と身体がすれ違う街の人にぶつかる。慌てて頭を下げて顔を上げると、後ろ姿を必死に追い掛けていた人の姿は人波に消えてしまっていた。 「あ……」 はぐれてしまった、と慌てて足を先に進める。見失ってしまった銀の髪を探そうと必死になって、辺りを見渡すが人が多く、見つけられない。 誰かに聞いた方が良いだろうか、どうしようかと足を止めてしまいそうになっていた私の肩を、誰かがぽんと軽く叩いていく。 それに応えるように、そちらの方を見れば、はぐれたと思って必死に探していた相手が心配そうに私を見ていた。 「イレース、大丈夫かい?」 早く歩き過ぎたかな、と申し訳なさそうな表情をするツイハークさんに慌てて首を横に振る。そんな私の必死な様子が伝わったのか、ツイハークさんはそっと頭を撫でてくれた。 「…一人にして悪かったね」 微笑んだその表情は柔らかく、胸がきゅっと痛む。何だか真っ直ぐにツイハークさんを見れなくて、視線を落とした私の耳に間の抜けた音が響く。 きゅうと切なげな声で鳴いたのは私のお腹だった。 「あ……」 人々の喧騒に紛れて、だが、確かにその場に響いたその音に顔が熱くなる。恥ずかしさでますます視線を下に落とした私の耳に、優しげなツイハークさんの声が聞こえた。 「イレース、お腹空いたかい?…少し、寄り道していこうか」 楽しげな調子で紡がれたその声に顔を上げると優しく微笑むツイハークさんと目が合う。 予定よりも早く、頼まれたものは全て買い終えてはいる。けれど、寄り道して良いものだろうかと思案していた私の意思に反して、お腹はまた切なげな声を上げる。 「………っ」 再び響くその声を止める術を、私は知らない。ただ、恥ずかしさで熱くなる顔を下に落とした私の手を、すらりと鍛えられたしなやかな指が攫っていく。 その手の動きを追うように顔を上げると、優しく微笑むツイハークさんの瞳にぶつかる。 「さ、行こう。何が食べたい?」 そう言って相変わらず何処か楽しげに笑うツイハークさんにぎこちなく笑い返す。繋がれたままの手が気になったけれど、とりあえず聞かれた事に答えようと辺りの出店を見渡す。 ふと目に入ったのは、店先で串焼きを売るお店だ。こんがり焼けるお肉の匂いに、自然と頬が綻ぶ。 「あそこのお店が…良いです…」 指で店の方を示しながら答えた私に、ツイハークさんはにこりと笑うと、私の手を引くようにその店へと足を進めて行く。 繋がれたままの手は離した方が良いだろうかと思ったけれど、繋がれた指先をしっかりとツイハークさんが握ってくれているのが見えて、胸がきゅっと苦しくなる。 …この苦しさは何だろう。 どうやらこの苦しさは、お腹の鳴く声のように分かりやすいものではないらしい。胸を押さえつけられるような、切ない胸の痛みを和らげようと空いた手で胸を押さえる。そうしてみても、胸の苦しさも鼓動の早さも変わらない。その原因はまだ私には分からない。 …けれど、ツイハークさんと手を繋いでいると嬉しい。 それは、間違いない私の本心だった。だから、今はこの気持ちを大事にしようと、緩く繋いでいた自分の手を、ぎゅっと強くツイハークさんの手に絡めた。 End. 19300打にてSir様からリクエスト頂きましたツイイレでした。 両思いなようなそうでないような二人という事だったので、傍から見たら仲良い二人なイメージで書かせて頂きました。仲良しな二人は可愛くて好きですv それでは、リクエスト&お付き合いありがとうございました! 2011.10.7 |