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心拍数異常アリ。




息が止まりそうだと思った。いや、実際息が止まったのかもしれない。
その時、自分がどうしていたのか分からない。分からない位に、頭の中がぐちゃぐちゃで、一瞬思考も世界も止まったような、そんな感覚がしたんだ。







心拍数異常アリ。








空は明るく、陽は高い。抜けるような青い空に燦然と輝く太陽の光を手で遮りつつ、眼下に広がる城下町を見つめる。今日は久しぶりの非番だ。いつもなら早起きして、夕方までずっと訓練に費やすのだが、今日は城下町の様子を見ておきたかったというのもあり、街への道を歩いていた。今歩いている丘を下れば、もう街に着く。街の警備がてらに、カリルの店に顔を出そうかとぼんやりと考えていると、視界の端に見慣れた色を見つける。森を思い出すような柔らかな緑は、自分が生涯の好敵手と認めた相手だった。

「オスカー…?」

確かめるように名前を呼んで近づけば、オスカーは地面にしゃがみ込んでいるようだった。確か今日は城下町と城を繋ぐ道の警備に当たっていたはずだ。門までにはまだ距離がある。何かあったのかと声を掛けようとした所で、オスカーは不意に立ち上がるとくるりと身体を翻す。ちょうど向き合うような形になった瞬間に視界に飛び込んできたのは、オスカーの腕にしっかりと抱かれた女性の姿だった。
薄い金糸のように柔らかそうな髪と薄く閉じられた瞳が、まるで絵本の中に出てくる登場人物のようだと思った。

「ケビン?」

振り返った先にいた俺の姿に酷くオスカーは驚いたようだった。驚いたのはもしかして、やましいことでもあるからなのかと口を吐いて出そうになった瞬間に、オスカーの腕の中にいた女性がうっすらと瞳を開ける。宝石のような青い瞳を潤ませ、オスカーを見つめると、女性は甘えるようにオスカーの胸に頭を寄せた。その姿はまるで、恋人に甘える姿のように見えて、ぐっと息が止まる。頭の中はぐちゃぐちゃに乱されたようで何も思考が出来ない。

「…っ」

とりあえず目の前の光景から逃げ出したい気持ちが衝動的に湧き上がると、止まってしまっていた身体を無理矢理動かし、その場を走り去った。後ろから自分を呼ぶオスカーの声が聞こえた気がしたが、確かめる気にはならなかった。




少し荒い息を整えるように深く息を吸い込む。肺に急に深く空気が入ったせいか、僅かに痛む胸を軽く押さえるとぎゅっと瞳を閉じた。閉じた瞳に浮かんできたのは、先程の女性とオスカーの姿。恋人のように抱き合っていた二人の姿が鮮明に思い出されて、慌てて頭を振った。

あの女性は誰だったのだろう。オスカーに恋人がいるなんて話は聞いた事はない。しかし、自分が聞いた事がないだけでいるのかもしれない。オスカーは城のメイド達の間でも憧れている者は多いのだと先日マーシャ殿も言っていた事をふと思い出して、自分でもほとんど無意識に溜息を吐き出していた。

「恋人がいても不思議じゃない…か…」

ぽつりと呟いた言葉にぎゅっと胸が締め付けられるように痛む。分かりきった事を口に出しただけだと言うのに、痛む胸は本当に傷ついているかのようだ。

何故、こんなに…。

口に出さずに呟かれた言葉の答えは探すまでもなく、すぐに自分の中に見つかる。

…答えは簡単過ぎる位、簡単だ。

自分以外の相手が隣にいるのが嫌だなんて、好き以外の何だと言うのだろう。

あまりにも子どものようなその自分の感情にふっと自嘲気味に笑った所で、自分の方へと近づいてくる足音に振り返る。振り返った先にいたのは、ついさっき振り切ってきた今からしがた好きだと自覚した相手の姿だった。

「ケビン」

俺の名前を呼ぶオスカーの表情は真っ直ぐだ。その腕には先ほどまでいた女性の姿はない。空いた両手をオスカーは俺の方へと伸ばすと、そのまま痛い程に強く抱き締められる。
その強い抱擁に小さく息を呑むと、耳元で囁かれる言葉に意識を集中させるように瞳を閉じた。



end




17400打にてリクエスト頂きましたオスケビでした。嫉妬するケビンさんと言う事で…いつもより乙女な感じになってしまったような…。
お待たせしたと言うのに、申し訳ないです…!少しでも楽しんで頂ければと思いつつ。
お付き合い&リクエストありがとうございました!