スイートシュガータイム静かな部屋。机に置かれた紅茶の入った可愛いカップ。そして、花柄の可愛い陶器のお皿の上にはオスカーさんお手製の美味しいクッキー。 そんなわくわくするような物に囲まれているにも関わらず、あたしは頭を抱えていた。何でこんな事になったんだろうとため息混じりに心の中で呟くと、目の前にいる大事な人を見つめる。あたしの視線に気付いたのか、橙色の優しい瞳がにっこりと微笑む。それが余計に恥ずかしくて、顔が、身体が熱くなっていくのが分かった。 遡ること、30分前─…。 大将との訓練も終わり、腕や足に応急処置で包帯を巻いた状態で砦に帰ると、食堂から甘い匂いがした。本当はすぐにキルロイさんに傷を治して貰おうと思っていたのだけれど、気付くと甘い匂いに誘われるように食堂へと向かっていた。 「やぁ、ワユ」 おかえり、と優しく笑うオスカーさんにただいまと笑顔で返す。大将と訓練してくると言ってあったお陰か、オスカーさんは傷だらけのあたしを見ても驚いた様子は無かった。 「傷、治してもらった?」 「行こうと思ったんだけど、良い匂いがしたから」 気遣うように問い掛けられたオスカーさんの言葉に小さく笑ってそう返すと、オスカーさんが手に持っていた皿を覗き込む。そこには花やハートの形をした可愛らしいクッキーがあって、思わず頬が緩んだ。 「わぁ!おいしそうっ!」 ぱぁっと目を輝かせたあたしを見て、オスカーさんはありがとうと嬉しそうに微笑む。そして、ちょっと待っててと一言残すとクッキーを持ったまま、また台所の方へと戻っていってしまった。 その後ろ姿を見送って、言われた通りに待っていると、クッキーの甘い匂いに混じってふわりと別の香りがした。 「紅茶…?」 漂ってきた香りの正体を言い当てるようにぽつりと呟くと、台所から戻ってきたオスカーさんが、正解と言って笑った。 「キルロイにケガ治して貰うんだろう?二人で食べて」 そう言うと先ほどのクッキーと一緒に、紅茶のポットとカップ二つが入ったトレイを渡される。気を遣ってくれたのか、クッキーは可愛い花柄の小皿に入れられていて、とても可愛らしい。 「ありがと!」 オスカーさんの気遣いが嬉しくてにっこりと笑うと、オスカーさんに背を向ける。早くキルロイさんに見せたくて駆け出したくなったけれど、紅茶が零れたら大変だと思い直して、大事にトレイを持つとキルロイさんの部屋へと歩きだした。 コンコン、と軽い音を立てて扉をノックすると、中から聞き慣れた声が返ってくる。どうぞ、と言う言葉に扉を開けると満面の笑顔でキルロイさんに笑いかけた。 「キルロイさん!見て見て!オスカーさんがクッキーくれたんだよ!」 可愛いよねと笑ったあたしにキルロイさんはきょとんとした顔をしていたけれど、あたしをじっと見つめて眉を顰めた。 「それより、その怪我どうしたの?もしかして、訓練?」 「うん!大将と訓練してきた所でさ。やっぱり大将って強いよね」 そう言って笑ったあたしに、キルロイさんは困ったように笑うと、あたしの手からトレイをそっと受け取った。 「…とりあえず、傷を治すから座ってて」 「あ、でも紅茶冷めちゃうから先に食べようよ」 ね、と笑いかけるとキルロイさんは、仕方ないなぁって困ったように笑って、部屋の中央にあるテーブル席へと案内してくれた。 …これが、つい先程の話。 それから何故かあたしは、視線を右へ左へ、上から下へと移動する羽目になっている。気まずさと羞恥から真っ赤になった頬を隠そうと下を向いていると、キルロイさんの優しい声が頭上から降ってきた。 「はい、ワユさん」 あーん、と言う言葉と共に口元に差し出されたクッキーにゆっくりと顔を上げる。そこには満面の笑みで微笑むキルロイさんがいて、何だか逃げ出したいような気持ちに駆られた。 「あ、あの…っ!だから、腕の怪我は大したことないから、自分で食べれ…」 「駄目。傷口が開いたら、大変だからね」 有無を言わさないその言い方に押し黙ると、小さく口を開けて、クッキーにかじりつく。普段穏やかな分、こういう言い方をされると、自分は本当に弱い。もうこうなったら早く食べてしまおうと思っていた所で、キルロイさんは極上の笑みを浮かべた。 「じゃ、次は紅茶ね」 え、と疑問の言葉を挟む余地もなく、目の前でキルロイさんは紅茶を口に含むと、そのまま唇を重ねてあたしの口内にそれを流し込んだ。羞恥と驚きで完全に思考を止めた頭は、流し込まれた紅茶を飲むのが精一杯で、指一つ動かせない。 「はい。じゃあ、次はどれを食べる?」 にこやかな笑顔で問い掛けられた言葉に、あたしは頬を真っ赤にしてただ力なく笑い返すしかなかった。 ─…それはとある午後の話。 甘い時間は、まだ終わらない。 end. リクエスト頂いたキルワユでした。 男になったキルロイさん、という事だったのに、ただ黒くなっただけのような…;;すすすすいません;; おい、書き直せというご要望はいつでもお受けしますので…! カカオ様、リクエストありがとうございました! 2011.4.26 |