晴れ・青・繋いだ手扉を開けた瞬間、瞳に飛び込んできた日差しの強さに思わず眉を顰める。眩しさで白く霞む視界を少しでも慣らそうとぱちぱちと瞬きを繰り返していると、後ろから軽く足を蹴られた。 「おい、何止まってんだ」 さっさと歩けと苛立ち混じり吐かれた聞き慣れた声に、はいはいと軽く返すと外へと足を踏み出す。何度か瞬きをしたおかげか、真っ白だった視界は今ははっきりとしていた。町を行き交う人々の姿と、町並みを縫うように広がる青い空。瞳に鮮やかに映るその光景を素直に綺麗だと思った。 「今日、天気良いよな」 くるりと振り返って笑ってみせると、蹴りを入れてきた可愛い恋人は、呆れた顔で思いきりため息を吐いた。何も言わなくても分かる。きっと次の言葉はこうだ。 「「お前、馬鹿だろ」」 重なった俺の声とシノンの声がお互いの耳に響く。シノンは一瞬驚いたような顔をしたが、俺が笑っているのを見て、ますます眉間の皺を深めた。 「分かってんなら、わざわざ言うな。おら、買出し終わったんだから、さっさと帰るぞ」 そう吐き捨てるように言うと、さっさと前を歩いていってしまう。その背中はあっという間に人ごみに紛れてしまいそうで、慌てて後ろを小走りについていく。 「なぁ、おい!買出し付き合ってやった恋人を置いてくか?普通」 人ごみの中、紛れてしまわないようにそう声を張った俺に対して、シノンはぴたりと動きを止める。ようやく止まってくれたシノンにやれやれと苦笑を漏らしながら近づくと、振り返りざまに勢いよく頭を小突かれた。 「痛っ!」 「誰が恋人だ。ふざけたこと言ってんじゃねぇ」 「またまたー。照れんなって」 けらけらと笑ってそう言うと、シノンは何か言おうと口を開いたが、結局諦めたようで大きいため息を一つ零して、再び歩き始めた。 その足取りはさっきよりも早い。自慢の目があるから、絶対に見失うことはないけれど、拗ねた子どものようなその反応が可愛くて、だらしなく頬を緩ませると走ってその背中を追う。そして走ってきた勢いのまま、空いていたシノンの左手をぎゅっと握り締めた。 「…おい」 たった一言。威嚇するようなドスの効いた声が聞こえたけれど、聞こえないフリをして回りをぐるりと見渡して見せた。復興したクリミアの城下町はエリンシア女王の意向に沿うように、ラグズとベオクが手を取り合って生活している。今も町には二つの種族が仲良く歩いている姿がいくつも見られた。 「良い町だよなぁ」 「はぁ?」 いきなり何だと言いたげなシノンの声に、にっと笑って見せる。そして、繋いだ手をぎゅっと握ると歌うように言葉を続けた。 「こうやって種族関係なく並んで歩けるってさ。良いことだよな」 戦場では幾度となく並んで戦ってきたけれど、こうやって平和になった世界でまた歩けるなんて、想像──というよりも希望でしかなかった。それが今、実現していることが酷く嬉しく、そして幸せに感じて、めいっぱい笑ってみせた。 シノンはそんな俺を見て、馬鹿と一言だけ呟いて、また歩き始めた。繋いだ手を振り払われるかと思ったけれど、シノンの長い綺麗な指はそっと俺の手を握り返すと、そのまま歩いていく。 当たり前のようにされたその行動が嬉しくて、ぎこちなく握り返された手をぎゅっと強く握り締めると、急いで離れそうになる背中を追いかけた。 end. けい様よりリクエスト頂いたヤナシノでした。 甘…い…?;;あんまりデレてなくてすいません…! リクエスト有難うございました! 2011.3.17 |