快熱触れ合った指先。 あなたとの距離はゼロ。 ……お願い。どうか、このままで。 深夜。夜の帳が世界を包む頃、ふと目が覚める。寝呆けた頭で瞳を擦れば、時計の針はまだ2時を指していた。 「うわー…変な時間に起きちゃったなぁ…」 思わず呟いた一言は自分の素直な感想そのものだ。いつもならぐっすり眠れている時間なのにも関わらず、目が覚めた─…その理由が何となく思い当たって、苦笑を漏らす。 ─…久しぶりに会えたのが眠れない程嬉しい、だなんて。 その事が、何だか酷く子どもっぽく思えてくすぐったくて、布団を頭から被った。 「…何、してるかな?」 違う部屋で眠るだろう想い人のことを想って、瞳を閉じる。優しい笑顔とあたしを呼ぶ声が頭に響いて、頬が緩むのが分かった。 「…キルロイさん」 そっと名前を唇に乗せると、きゅっと胸が苦しくなる。 武者修業の旅の途中でも、無性に会いたくなることはあったけれど、すぐに会うことなんて出来る訳がない。淋しいって言葉を飲み込んで、眠る日もあったけれど、今日は違う。 …ほんの少し、勇気を出せば、すぐに触れられる距離にいる。 「…少しだけ」 そう言うと、被っていた布団からばさりと出る。深呼吸一つすると、どきんどきんと高く鳴る胸を押さえて、床に下りる。 夜の冷たさでひんやりとした床は、火照った身体には心地好い。 少しだけ。顔を見るだけ、と言い訳して、ドアのノブを回す。孤児の子たちを起こさないようにと静かに部屋の外に出ようとした所で、暗闇の中に浮かぶ白が見えて、ぴたりと動きを止めた。 「…ワユ、さん?」 確かめるようにあたしを呼ぶ声が暗闇から聞こえてきて、どくんと心臓が跳ねる。 思いもよらない声に、そっと暗闇に浮かぶ白に声を返した。 「…キルロイ、さん?」 問い掛けて手を伸ばすと、キルロイさんからもあたしの手が見えたらしく、そっと指先が触れ合う。 そのままお互いを確かめるように指を絡めると、ぐっと引き寄せられるのが分かった。 「ワユさん…」 起きてたんですねと耳元で囁かれ、ぞくりと背筋に甘い痺れが走る。 抱き寄せられて密着した身体からは、あたしの鼓動なのか、キルロイさんの鼓動なのか分からない早鐘の音が身体中に響いていた。 顔を見たらそれで良いって、さっきまで確かにそう思っていたはずなのに、それだけじゃ物足りなくて。暗闇にぼんやりと見えるキルロイさんの顔に顔を近付けた。 もっと、もっと触れたいと急かす心に背中を押されるままに唇を寄せる。暗闇のせいで唇に押しあてることは出来ず、唇が鼻先に触れたのが分かった。 「…っ」 キルロイさんが驚いて、息を飲んだのが分かる。そのまま離れていきそうなキルロイさんに、行かないでと縋るように唇を再度寄せた。 今度こそ、唇が触れ合う。押しあてるだけで胸が痛い位高鳴って、壊れてしまいそうに感じた。 「…んんっ!?」 唇を離そうとした瞬間、ぎゅっと抱き締められて、そのまま深く口付けられる。 突然のことに目を丸くしたあたしの口内を、キルロイさんの舌が撫でていく。 優しいような、でも少し荒っぽく撫でては絡めていく舌の動きに、次第に頭がぼんやりしていく。 「…っは」 ようやく唇が離れる頃には、自然と身体はキルロイさんと抱き合う形になっていて、抱き合った身体からは、キルロイさんの少し早い心臓の音が響いていた。 ドキドキ、してるのかな。 あたしと、一緒? そう心の中で問い掛けたあたしの問いに答えるように、キルロイさんは小さな声で呟いた。 「ワユ、さん」 震えるような、微かな声があたしの名前を呼ぶ。 ずっとずっと聞きたかった大好きな声。その声が耳元で響いて、それだけでぞくりと身体が歓びに震えた。 「もっと……触れても良いですか?」 戸惑いの色が濃い震えた声に、イエスと答える代わりにぎゅっと抱きついた。 「あ…っは…!」 紡がれる声。吐き出す吐息は甘く熱くて、自分のものでないような錯覚を覚える。 夢の中にいるような、ふわふわとした高揚感を現実に繋ぎ止めているのは、身体の中を出入りするキルロイさんの熱だ。 「ワ、ユさん…っ」 熱が籠もった声に呼ばれて、ぎゅっと瞑っていた瞳を開ける。生理的な涙で滲んだ視界に、小さな灯りに照らされたキルロイさんが映る。 オレンジの髪がランプの光に照らされて、優しく光る。気遣うような、でもいつもよりも熱っぽい視線に、どくんと大きく胸が高鳴った。 「キルロイ、さん」 大事に大事に名前を呟くと、ふわりと笑ってみせた。 大事な人と……あなたと繋がってる。 誰よりも近くにいる。 ──…そのことが、こんなにも嬉しいんだよ。 「…っあ!は、やぁ…!」 急に再開した愛撫にまた思考に快楽が交じってぐちゃぐちゃになる。 快楽に飛びそうになる意識を何とか繋ぎ止めて、ぎゅっとキルロイさんに抱きついた。 触れ合った距離。 こうして繋がっている今、あなたとの距離はゼロ。 だから、どうか─…。 この時間をあたしの身体に刻み込んで。 そうすれば、淋しい夜を乗り越えて、辛いことを飛び越えて、強くなっていけるから。 …また此処に帰ってくることが出来るから。 END 前回がエロ!な感じだったので、エロ!というより、エロ+αという感じにしようとしたら、見事にエロが消失しましたね← でも、キルワユはらぶいちゃが似合うと思います。 エロっていうか、繋がることの意味とか交わす感情を大事にしそうっていうか。そういうことが言いたかったんですけどNE!!! 力量不足ですいません。 リクエスト、ありがとうございました! 2010.12 |