トリックオアイタズラもお菓子もいらない。 だから、ねぇ 鏡を見ながら、唇に紅を引く。真っ赤な林檎のような赤が唇を彩って、鏡に映った自分が自分じゃないような、そんなくすぐったい感覚に思わず唇の紅を拭いたくなったけれど、今日だけのことだからと自分に言い聞かせる。 「あとは…」 衣裳だけ、と呟いて床にきちんと折り畳んである衣裳を取る。 セネリオにお願いして、二時間ばかりの論争の末、ようやく貸して貰えたそれを羽織ると鏡をもう一度見つめた。 真っ赤な唇、黒のローブ。 今日のあたしは剣士じゃなくて、魔法使いだ。 にっと笑みを浮かべると鏡に背を向け、目的の場所へと駆け出した。 目指すは砦の中の一室。 やさしくて、大好きなあの人がいる部屋。 逸る気持ちに急かされるまま、扉の前まで行くと、少しだけ深呼吸して、ドアをノックする。 コンコン、と軽い音を立ててると、中から聞き慣れた声で短い返答が返ってくる。その声に応えるようにドアを勢い良く開けると、大好きなキルロイさんのびっくりした顔が目に飛び込んできて、思わず顔が緩んだ。 「ワユ、さん?その格好もしかして…」 「えへへ」 イタズラっぽく笑ったあたしに、キルロイさんがにっこりと笑い返してくれて。 そのやさしい笑顔が嬉しくて、用意していた言葉を満面の笑みでキルロイさんにプレゼントした。 「トリックオアトリート!…オア……ラブ」 え?と疑問を浮かべたキルロイさんに笑いかけると、そっと頬に触れるだけのキスをした。 ねぇ、キルロイさん。 あたしね、お菓子もイタズラもいらないんだ。 欲しいのは、あなたの気持ち。 ―…だから、ねぇ。 この特別な日の魔法を借りて、あなたの気持ちをあたしに下さい。 end. ハロウィンの日に書いたブツ。 英語合ってなくね?というツッコミはスルーしてやって下さいorz |