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アカイイト




幼い頃に交わした、あの約束。

ねぇ、覚えてるよね?


忘れてないよね?











さらさらと小川の流れる音がする。

木々の間からきらきらと零れる光を身体に浴びながら、一歩一歩ゆっくりと沢へと降りていく。

一足先に行った澪は心配そうに私を見つめていて、その瞳ににっこりと笑ってみせた。


──澪が私を心配してくれてる。
それだけで、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

幼い頃に負ったこの右足の傷は決して癒えないものだけれど、それでも良いの。

だって、この痛みと引き換えに澪を手に入れられたから。



─…幼い日。
その日は、今日と同じような天気の良い日だった。

いつものように、家の近くの山道で遊んでいた時のこと。

昔から運動神経の良かった澪は、私の先へ先へと走っていってしまって、私はただその背中に追い付こうと必死に走った。


けれど、走っても走っても澪に追い付くことはなくて、段々だんだん離れていく。
私と澪の間に、簡単に埋められない距離が開いていく。


それは、まるで私たちの間に埋められない溝が出来ているようで、それがこれからも続いていくのかと思ったら、悲しくて辛くて胸が押しつぶされそうで。
無意識に足元の道を踏み外し、小さな崖の下に自分から飛び込んだ。

地面に思いきり叩きつけられた鈍い痛みと右足がちぎれるような痛みの中、私を呼ぶ澪の必死な声が霞んでいく意識の中に響いて、ふっと笑みを零した。


──あぁ、澪。みお。
私を心配してくれるの?ずっと傍にいてくれる?

ねぇ、ねぇ、ねぇ。

ずっと、一緒にいよう。


…ずっとずっと、いっしょに。





……あの日から、澪はずっと一緒にいてくれた。

私に対する罪悪感を抱きながら、私を心配してくれた。気遣ってくれた。


あの時、崖から足をわざと踏み外したのは衝動的なものだったけれど、それで澪が私のものになってくれたなら、私のこの不自由な足なんて安い代償だった。



──ずっと、一緒だよ。


幼い頃に交わしたその約束は、きっとこれから先も違えることはない。
だって、澪は私を心配してくれて、こうやって気遣ってくれるから。


違えることはない。…違えることはないと思うのに、胸にまだ残るこの不安は何なんだろう。


澪と一緒にいたい。

いっそ私をドロドロに溶かして、澪の身体と一つになってしまいたい。


そうすれば、ずっと一緒にいられるのに。
離れることなんてないのに。


そんな幾度も考えたことを自嘲交じりに心の中で呟いて、未だ心配そうに私を見つめる澪にふわりと笑ってみせた。




end.






紅い蝶のプロローグをイメージして。
プロローグは澪視点なので、繭姉さん視点で書いてみました。

繭の抱えた孤独感とか絶望感は紗重とシンクロした所為だけではないと思ったので。

夏と言えばやっぱり、ね!零大好き!!←←


2010.8.4