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メルヘンとグレーテル




俺が君に「愛」を教えるよ。

君が俺に、「恋」を教えてくれたように。













メルヘンとグレーテル












乱れたシーツの上、ごろりと寝返りを打つと目の前に見慣れた顔がアップで映る。

思わぬ近さにどくりと高く鳴った鼓動がやけに耳に響いて軽く舌打ちをした。

カッコ悪、と心の中で自身に毒づくと改めて目の前の顔をじっと見つめる。

傷んだ金の髪が真っ白なシーツの上に散らばって、目がチカチカする。普段は悪態しか吐かない口は今は閉じられていて静かなものだ。

喋らない、というだけでこんなにも印象が違うものかと半ば感心しながら、そっと髪を撫でる。

幼子にするようなその仕草にシズちゃんはくすぐったそうに僅かに眉根を寄せて、そしてまた何事もないかのように規則正しい呼吸音を始めた。


─…こんなに無防備なシズちゃん、きっと誰も知らないんだろうな。

あ、でも幽は知ってるか。


家族ってズルいよね、とぽつりと呟いてみたけれど、目の前で眠るシズちゃんの数時間前の様子を思い出して、ふっと笑みを零した。


──…そうだ。家族ですら知らない顔を俺だけが知ってるじゃん。

どんな声で喘いで、どんな表情をするのか、俺だけが知ってる。池袋の皆も、家族でさえも知らないだろうシズちゃんの事。


─それを俺だけが知ってるんだと思ったら、優越感で口角が自然と上がっていた。


あぁ、誰も知らないシズちゃんを俺だけが知っている。それがこんなに嬉しいことだなんて知らなかった。

情報屋としての知識ではなく、「折原臨也」としての知識。
それがこんなにも愛しくて、価値があるものなんだってシズちゃんに会うまで知らなかった。

「…いや」

正確に言うなら、シズちゃんに「恋する」までだ。
人間観察の一貫としてでしかなかった恋が、こんなにも面倒で自制が難しくて、何よりも愛しいものだなんて知らなかった。


──バケモノに恋を教えてもらうなんてね。
そう皮肉めいた笑みを浮かべて目の前のバケモノを見つめる。すやすやと眠るシズちゃんは、大嫌いだった俺に抱かれて疲れて眠ってるだなんて!ああ、恋ってこんなにも人を変えるんだね。

無防備な寝顔に小さく口付けて、また頭を撫でた。
シズちゃんを抱いて、気付いたことがある。最中の時のシズちゃんが堪らなく愛しいこと。事後、疲れて眠るシズちゃんを見ると、心が満たされること。


─…シズちゃんに恋をして、本当に色々なことを知った。
誰かと楽しそうに話すのを見るだけでイライラするとか、かと思えば脇目も振らずに俺を追い掛けてきてくれるのが嬉しいとか。
小さなことで一喜一憂する俺なんて、想像したこともないでしょ?


「ねぇ、シズちゃん。辞書にシズちゃんが載ったらさ、こういう意味があれば良いと思うんだ」

ふっと浮かんだ考えを子守唄を歌うように口に出すと、枕元に置いてある手帳を手に取り、ペンを走らせる。

シズちゃん、と書くとその下に馬鹿力、自動喧嘩人形と書いて。それから、もう一文字付け加えて笑みを浮かべる。
そうシズちゃんって書いて、そう読んだら良い。

だって、シズちゃんって呼ぶのは俺だけで、俺だけが知ってる意味でしょ?
俺だけが知ってる意味。俺だけが知っていれば良い意味。


「…ねぇ、だからさ。シズちゃんは俺って書いて、愛って読んで良いよ。俺はシズちゃんと違って、全人類を愛してるし、愛し続けられる自信がある。だからさ、シズちゃんの分も俺が周りを愛してあげるから、愛するのが苦手なシズちゃんは俺だけを愛せば良いよ」

ねぇ、簡単でしょと笑うとシズちゃんの閉じた瞳がぱちりと開いて、色素の薄い瞳に俺が映る。

「あ、ゴメン。起こしちゃった?」

「デカイ声で話し掛けたのは手前だろうが」

「あはは、ただの独り言だったんだけどねぇ」

聞こえちゃった?と笑うと深々とため息を吐かれる。…今起きたフリして、しっかりと話を聞いてたクセに、と心の中で笑いながら呟いて、にっこりと笑って手帳を見せた。

「ねぇ、俺辞書作ってみたんだよ」

「はぁ?」

頭イカレたかと言わんばかりのシズちゃんの瞳に酷いなぁと笑って見せると、手帳に書いた文字を指差して見せた。

「シズちゃんは、馬鹿力、自動喧嘩人形、それで…」

「恋…って何だよ?」

「シズちゃんって言葉の意味だよ」

ぴったりでしょと笑うと、本日二回目の深々としたため息を吐かれる。シズちゃんは、そのままベッドに転がっていたペンを取ると、無言で手帳に文字を書き出した。


ノミ蟲と書くと、俺がシズちゃんの下に書いていったように、下にウザイとかキモいとか辛辣な言葉が続いていく。

「ちょっと、シズちゃん酷くない?」

「うるせぇな。間違ってねぇだろ」

「違ってるよ!俺って書いて─…」

愛だよ、と言おうとした矢先、目の前に手帳を突き付けられる。
そこには散々書き殴られた暴言の数々と、最後に小さく─…本当に小さな字で、『あい』と書かれていた。

「……シズちゃん、漢字知らないの?」

「うるせぇ」

嬉しくて嬉しくて嬉しくて。
泣きだしそうになるのを必死で堪えてそう笑った俺に、シズちゃんは黙って寝ろと吐き捨てるように言うと、ごろんと寝返りをうった。

向こうを向いてしまった背中にぎゅっと抱きつくと、大好きと愛してるを繰り返し繰り返し呟いた。



─…この手帳に書かれた言葉を知ってるのは、俺とシズちゃんだけだけど、それで良い。

いつかこの手帳に書いた意味が、二人の間で当たり前になりますようにと願って、シズちゃんの傷んだ髪にそっと口付けた。





end.






シズデレに挑戦してみた、ハズなのに、ヘタレ臨也に挑戦した感じになりました。はい、残念!(笑)

全く触れずに終わりましたが、この話の二人は恋人設定です。あわよくば、同棲してたら良い←←


ネタは某バンドのタイトルと同名の曲から。マジあのバンドの曲はイザシズ過ぎると思う。ソクラティック、ラブ!←←


2010.7.26