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Q,E,D,




久しぶりの酒場。
期待通りの酒の匂いとたくさんの人の声が妙に懐かしい。
羽があるからといって浮くわけでもなく、ちらほらと自分以外にも同胞の姿を確認する。
どこかにキレイでステキなオネエサマでもいないかなー、なんて考えたりしながら、ぼんやりと席を探した。


「お?」


ステキなオネエサマはいなかったけど、そこには見慣れた赤があった。
視界を埋める、艶やかな赤。

懐かしいその色。


「んだよ…じじいかよ。」

懐かしいその声。


「悪かったな、年寄りで。」

「別に悪いとは言ってねえだろうが。」

「じゃ、隣座るぜ。」

「勝手にしろ。」

そうは言いつつ、シノンは隣の席に置いていた手荷物を膝の上に移動させた。
素直じゃないなあ、と笑みがこぼれる。
小さな笑い声は周りの雑音に掻き消され、彼の耳には届かなかった。

空いた席に腰を下ろし、マスターからカウンター越しにグラスと瓶を受け取った。



「ちょっと、相談してもいいか?」

「あ?老人が若者に質問ったあ珍しいじゃねえか。」

けらけらと、乾いた笑い。
相変わらずの皮肉にむっとなるが、それよりも先に顔が綻ぶ。
この皮肉さえ、懐かしいのだ。


「いや、ウルキや王に聞く様な事でもねえなって。」
「ふーん、で?」

彼はからかおうともせず、ごく自然に話を聞く体勢に入っていた。
意外だった。
聞いてくれるのか、と驚いていると、視線で早くしろと促される。
心の中で大きく息を吸って、息をのんだ。

「俺、病気じゃねえかなって。」

「は?お前がか?」

シノンは眉間に皺を寄せたかと思うと、小さく溜め息をついた。
動く口元が何を意味していたか、それは聞き取れなかった。

「最近さ、無性に動悸があるんだよ。」

「…他には?」

「こう、さ、胸がきゅーんってなって、痛いっていうか…むず痒いんだよな。」

「…おいおい。ちょっと待て。」

説明を途中で遮られる。
そして不意にシノンの顔が変わった。いつも通り眼光は鋭いのだが、何というか、こちらを疑ってかかるような視線だ。

「な…何だよ…。」

「お前、今、好きな女いんのか?」

「へ…?」

シノンのすっとんきょうな質問にただ目を丸くして耳を疑う。
その様子を見た彼は呆れたように溜め息をつき、目を臥せた。

「…あのなあ、お前の言った症状は全部、恋患いだ。」
「こ、い…。」

「気づいてなかったのかよ…。」


恋。そう言われてみれば確かにその気がする。
いや、それしかあり得ない。

自覚すればそこからは早いもので、直ぐに体温は急上昇。
驚いて止まっていた心音も再びうるさく鳴り始める。

しかし、恋だとはいえ、一体誰に。
考えて、真っ先に頭に浮かんだのは今現在目の前にいる男性だった。
否、ないないない。
必死に頭の中に浮かんだイメージを追い払おうとがむしゃらに髪を掻く。
まさか、な。ちらりと彼の姿を横目で確認する。
赤い髪がやけに綺麗だ。それに対するかの様な白い肌。
──やばい、何だこれ。
わかっているのに目を背ける事が出来ない。
今度こそ、認めざるを得なかった。


「う…っわ、マジ…?」


「へーえ。面白え。こりゃあいいな。」


赤面する俺を横目に、シノンはにたにたと悪い笑みを浮かべる。
何か言ってやりたいが、生憎こちらにはそんな余裕はない。
察してくれ、と視線を送るとシノンは俺の頭を荒々しく撫でた。

「じじいでも可愛い所あるじゃねえか!」

彼は大笑いしていた。
当の俺はそれどころではないというのに。
彼の指が、触れる。それにすらうぶに反応してしまう自分が憎かった。

「へっ、まあいいぜ。今日はゆっくりそいつの事でも考えてろよ。」

「あのなあ…。」

「今日はもう帰るぜ。また明日、ここでな。」

「あ、おい…」

シノンはえらくご機嫌な様で、皮肉のひとつも言わずに帰って行った。



一人、酒場に残される。
ぽっかりと開いた隣の席と自分の心。


「最悪だ…。」


彼が言ったとおり、嫌でも彼の事を考えて眠りにつくのだろう。
本当に、最悪だと思った。

明日、という何気ない約束に胸をときめかす自分がいる。
どうせなら、気づかずに過ごしたかった。


誰にぶつければいいかわからない苛立ち。
止まらない、暴走した感情。


グラスに入っている酒を一気に呑み干すと、また溢れる直前まで透明を注いだ。








Q,E,D,
(俺、あいつの事、)



end.




緋色様のサイトにて、キリ番踏みまして、頂いてきちゃいました!ヤナシノですよーっ!!
うわーい、うわーい!
ヤナフが可愛くて可愛くて仕方ない…!何この可愛いおっちゃん…!(失礼)

そして、このシノンさんの可愛さ。たまりません…!マジ萌える…!
にたにたしてるシノンさんを想像して、にやにやした自分は自重すべきですか、そうですか←←
素敵なお話ありがとうございました!!