月影浪漫その指に触れたい。 その髪を手で梳きたい。 その薄い唇を、そっと塞いでしまいたい。 貴方を前に、気持ちは溢れていくばかり。 深夜。静けさと闇が支配する中、千鳥足のシノンさんと共に、砦への帰路を急ぐ。 辺りは小さく虫の鳴き声がするだけで、至極静かな空間が広がっていた。 「…呑んだな」 「呑みましたねぇ…」 ぼんやりと空を見上げながらふらふらと歩いていくシノンさんの後ろ姿を見つめながら、今日のことを思い出す。 久し振りに大きな仕事を終え、羽振りが良かったのもあって、いつもなら二人で一本空ける程度のところを、三本近く空けてしまった。 飲み過ぎた、と言っても良い位の量だ。久し振りに呑んだな、と感傷に浸りながら見上げた夜空は、星がよく見えなくて。 数個の小さな瞬きを残す夜空に淋しさを覚えながら視線を元に戻せば、ふらりふらりと覚束ない様子のシノンさんがいて。 危なっかしいその足取りに肩を貸そうかと考えていた瞬間に、ぐらりと大きく揺らいで、そのまま地面に倒れこんでしまった。 「ちょ、シノンさん!」 「…気持ち悪ぃ…」 大丈夫ですか、と聞くよりも先に発せられた言葉に慌てて駆け寄る。 少しでも気分をよくしようと背中をさすろうと、しゃがみこんだ俺をシノンさんは一瞥して。 そして──ちゅ、と音を立てて唇が押し当てられた。 一瞬の出来事に目をしばたかせ、硬直した俺を可笑しそうに見つめると、何事もなかったようにシノンさんは立ち上がった。 「隙だらけだな、お前」 揶揄するような言い方でけらけらと楽しそうに笑う顔に、怒りよりもどくんと大きく胸が高鳴った。 ──貴方の前だから、隙だらけなんです。 ─…なんて言えるはずもないから、へらりと笑ってみせた。 「酔ってる人間に酷いっすよ〜、シノンさん」 「酔ってるからって、隙ありすぎだっつーの」 酔っている所為か、酷く上機嫌な様子のシノンさんの後ろ姿を見つめて、こっそり触れられた唇の感触を思い出す。 酒で僅かに濡れた唇は柔らかくて、もっと触れたいと思うほどだった。 ──…その感触を思い出せば思い出すほど、酔いは完全に冷めてしまっていて。 ほろ酔い気分で上機嫌に歩くシノンさんの後ろ姿を見つめて、小さくため息を零した。 end. ガトリーの片思いがどんだけ好きなんだよって感じですね。 両思いも好きだけど、ガトシノは片思いのが好きです(ヒデェ |