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Blue star




それはまるで、見えない壁のように。

目の前にいるのに。

厚い厚い壁が、行く手を阻む。














「最近、エリンシアさまに会ってないね」


不意に掛けられたミストの言葉に視線をそちらに向ければ、淋しそうに空を見上げていて。
その横顔に促されるように、言葉を紡いでいた。


「仕方ないだろう?姫は会合だ何だと忙しいみたいだからな」


「そうなんだけど…。今までは毎日会ってたでしょ?…急に会えないとやっぱり淋しいよ」


ふぅとため息まじりに言葉を紡いだミストに、じっと見つめられる。
お兄ちゃんは淋しくないの、と大きな瞳が雄弁に語り掛けていて。

真っすぐなその瞳に思わず頷きかけて、首を振る。


─エリンシアは、今祖国の為に頑張っている。
淋しいと思うことは、その頑張りを否定してしまうようで、何だか憚られた。

そんな事を考えていた俺からふいと視線を逸らして、ミストがまた空を見上げる。


「…何してるかな、エリンシアさま…」


「そんなに心配なら、様子を見てきたら?」


ドアが開くと同時に、聞こえてきた声に振り向けば、穏やかに微笑むティアマトがドアの所に立っていた。


「ティアマトさん!でも、用事がないのに、会っちゃダメだって…」


「今後の事について、明確な指示はもらってないでしょう?だから、それを理由に出来ないかしら」


ねぇ、とティアマトに話を振られて、一瞬面食らう。
会ってはいけないという考えしかなかったが、確かに言われて見れば、明確な指示をエリンシアから受けてはいない。

それを言えば、堅苦しいこの国でも、会わせて貰える理由になるかもしれない。


「…行ってみるか」


「なら、わたしも!」


「気持ちは分かるけど、指示をもらいに行くのだから、ミストは駄目よ」


元気よく挙手したミストをやんわりと宥めるように、ティアマトがミストの頭を撫で、やさしく微笑みかける。

むっとした表情をしていたミストだったが、ティアマトの言葉に納得はしたのか、渋々といった様子で頷いた。


「じゃ、お兄ちゃん。エリンシアさまに会えたら、無理しないでって伝えてね?」


「あぁ」


安心させるように微笑んでみせると、ミストもほっとしたように顔を綻ばせた。

それを確認すると、善は急げと言うように足早に部屋を後にした。






長い廊下を歩きながら、神使の側近である天馬騎士の姿を探す。

エリンシアに会う際に、彼女に事前に確認を取るように言われていた。
たかが会うだけだというのに面倒だとは思うが、この国での決まりだ。守らない訳にはいかない。


「あら?アイク殿、どうかされましたか?」


「エリンシアに会いたい」


こちらの姿を見つけ、話し掛けてきた探し人に、そう端的に伝えると、いつもの穏やかな笑顔に、少しだけ苦笑が交じる。


「また急ですね。でも、何もご用事がないのにお通しする訳には─」


「指示を得たい。しばらく、この国に滞在するみたいだからな」


「指示、ですか。なら、お通ししない訳にはいきませんね」


クスと笑ってそう言うと、シグルーンは楽しげに微笑んだ。
その表情に、自分の考えを見透かされたような気がして居心地の悪さを感じていると、シグルーンは至極穏やかに言葉を続けた。


「エリンシア様は今はお部屋でお休み中のはずですから、部屋までご案内しましょうか?」


「いや、分かるから良い」


「そうですか。…会合がこの後控えていますから、あまり時間をかけないようにお願いしますね」


早く会いに行こうと歩き始めていた俺に釘をさすような言葉が聞こえてきて。
申し訳なさそうに微笑んでいるシグルーンに、こくりと軽く頷くと、踏み出した足を早めた。




静かな廊下をずっと進んだ先の豪華な扉を目指す。
長い廊下は、つい最近までは、近い存在だったはずのエリンシアが、自分とは違う世界の人間なのだと言われているようだ。


「姫、か…」


この国に─ベグニオンに来るまでは考えもしなかった。
その言葉がどれだけ、自分には遠い存在を指す言葉なのか。この国に来てから嫌と言うほど思い知らされた。


…かといって、到底納得が出来るものではなかったけれど。


「ここ、か」


一際豪華な扉の前に立ち、軽く呼吸を整える。
自分達のいる部屋とは違うその扉は、この国に来てから知った「身分」というものを象徴しているようで、気分が悪かった。


「エリンシア?入るぞ」


そんな扉をさっさと開けてしまいたくて、数回のノックの後、返事を待たずに部屋の中へと入る。

豪華な扉に負けず劣らず、広くやたらと飾り付けられた部屋の奥の机に、探し人の姿があった。


「エリンシア、今後のことなんだが…」


話し掛けながら近づいていくものの、何の反応もなく。机に突っ伏したまま動かない様子を不審に思いながら、そっと覗き込む。


「…エリンシア?」


呼び掛けて見たもののもちろん返事はなく、返事の代わりに、穏やかな呼吸音が聞こえてきた。


「…寝てるのか」


ほっとして、自然と潜めていた吐息を吐き出す。
エリンシアは随分疲れているのか、俺の気配にも声にも気付く様子もなく、規則正しい呼吸を繰り返している。


─随分、疲れているんだろう。机の上には書きかけの書簡とペンが転がっていて、閉じられた瞳の下にはうっすらとクマが出来ていた。


こんなにも頑張っているのは祖国─クリミアの為なんだろう。
代わってやれれば良いと何度も思ったけれど、会合などこの国で俺たち傭兵団が出来ることはほとんどない。

それに、本人がそれを望んではいないから。


未だ眠りから覚めそうにないエリンシアに、羽織っていたマントをそっと肩に掛ける。

─…この国では傍にいることすら難しいかもしれないが、エリンシアは大事な仲間だ。

それは、「身分」がどんなに違っても、変わらない。

大事だと想う気持ちも、守りたい気持ちも。


何も、変わりはしない。


「…あまり無理はするなよ」


傍にはいれなくても、仲間だから。

そう声に出さずに呟いて、そっと頭を撫でた。



END






最後までちゅーさせようか否か迷った記憶があります(笑)
結果、仲間って意識の方がこの時はまだ強いかなと思って、頭なでなでにしてみました。
頭なでなでも好きですよ!←聞いてないww

【Blue star】
信じあう心