Toadlily考えなかった訳じゃない。 もし、私が王女でなかったならと。 国を追われる身になり、祖国を復興させる旗印になんてならなかっただろう。 もっと今よりも自由な身分で、あの人に──アイク様に会えたかもしれない。 でも──…。 きっと王女でなければ、アイク様には出会えなかった。 隣で、共に立って戦うなんて、きっと出来なかった。 ……こんなにも大事だと想うこともなかった。 「エリンシア」 「えっ?は、はい」 不意に呼びかけられた声に、思考の海に沈んでいた意識が引き戻される。 ぱっと反射的に顔を上げれば、アイク様の真っ直ぐな瞳にぶつかった。 「それじゃ、俺たちはもう行くからな」 「あ……」 告げられた別れの言葉に、思わず手を伸ばしかけてやめる。 ──アイク様が傭兵団の生活に戻ると言ってから今日まで、この日が来ることは分かっていたはず。爵位も返上された今、この王都に引き止めておく理由がないことなんて。 でも、もし私が王女でなければ──…。 去り行くあなたの手を取って、共に行く道を選べたでしょうか? もしも、私が……。 「あの、アイク様……」 「どうした?エリンシア」 ──…私が王女でなかったなら、あなたは私を連れて共に歩いてくれたのでしょうか? 「…どうぞ、お元気で」 「あんたもな」 去り行く背中にそっと手を振って、思わず声に出しそうになった願いを止めるように、唇をそっと手で覆った。 それは、絶対に口には出してはいけないコトバ。 願うべきではないネガイ。 end. 立場的に、一緒に生きていけないって思ったんだろうなぁと思って、すごく切なくなりました。 二人なりの生き方ではあるのかなとは思いますが、お互いが「大事な人」だったらいいなと思います。 【Toadlily】 花言葉:秘めた意志 |