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分かっていたの。


こんな状況だから、出会えたこと。

この出会いは異質で、「普通」のものではなかったと。



…分かっていたはずなのに。



いつしか貴方の隣にいることを望むようになり。

一緒にいられればそれで良かったはずなのに、いつしか『特別』を望んでしまっていた。















帝都についてから、もう一週間になるだろうか。

神使様にお会いして、クリミアへの再興支援を協議して下さることになったのに、ほっとしたのも束の間。べグニオンは議会制を取っていることもあり、そう簡単に支援が決められるものでもなく。

協議がなされる間は帝都にとどまることを余儀なくされ、その日からというもの、ほとんど毎日のように夜会や会合の誘いに奔走していた。


「でも…頑張らなきゃ」


お父様やお母様、そして叔父様たちが守ってくれたこの命はそのためにあるのだから。


それに、ここまで──このべグニオンまでずっとわたしを守ってくれたアイク様たちのためにも、弱音を吐きたくはなかった。


「アイク様…」


そっと名前を口に出せば、ズキと胸が痛んで。

瞳を閉じれば、数日前の光景が蘇ってきた。




──数日前。

大勢の貴族と兵士が見守る中、私たちはようやく公の場での神使様との面会を許された。

豪奢な部屋とそこにある雰囲気は、神聖な雰囲気に包まれていて。

その雰囲気に呑まれてうまく言葉を紡げずにいた私に向けられたものは、決してやさしいものではなく。それとは全く逆の、嘲るような笑み。見下したような言葉。


『国を再興する』


その目的だけが、全てを失った私を支えてくれていて。それだけが、私を必死で逃がしてくれたお父様やお母様、そして叔父様たちに救われたこの命の意味だと思っていたから。

だから、どんな言葉を浴びせられても取り乱してはいけないと、悔しさで泣き出しそうになるのをぐっと堪えていたのに。


あの人は──アイク様はまっすぐな瞳で、物怖じすることもなく、凛と言葉を放った。


その言葉はまっすぐで、嘘偽りなどなくて。


私を信頼していること。

そして、それを侮辱されたことを怒ってくれて。


その、紡いでくれた言葉ひとつひとつが胸に響いて、私を嬉しさで満たしていってくれた。


そして、何よりも──…

──エリンシア、と名前で呼んでくれたことが、何よりも嬉しかった。


だから、錯覚してしまったの。


「雇い主」ではなくて、特別に思ってもらえてるんじゃないかって。



そんな浅はかな考えを持ってしまった私に返された言葉は、勿論私の望んだものではなかった。

「エリンシア」と、そう呼んで欲しいと告げた私に、アイク様は首を横に振った。



「馬鹿ね…」



──「特別に」なんて、そんなことあるはずないのに。



アイク様は、相手が私じゃなくても、きっと怒っただろう。

誰よりもあたたかくて、やさしい人だもの。

信頼関係を侮蔑されるような言葉を言われて、黙っているような人じゃない。


相手が誰であろうと、あのまっすぐな瞳と言葉で。

凛と言葉を放てる人。


…だから、きっとこんなにも心を惹かれた。

こんなにも、特別になりたいと願ってしまった。


「アイク様…」


呟いた言葉は夜の帳に静かに消えたけれど、胸に宿った淡い想いも願いも消えてはくれなくて。



その気持ちを押し隠すように、そっと瞼を落とした。



end.






姫の片思いはすごく萌えます。可愛いよ、可愛いよvvでも、何だかんだとこの二人はお互い片思いしてるって勘違いしてたらいいなという妄想。←不毛ww