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メルトダウン




甘い甘い感触に酔ってしまいそう─…だなんて馬鹿げてるよね。











真っ暗な部屋に一つだけ開け放たれた窓。
そこから吹き込む風に揺られて、遮光製のカーテンがひらひらと舞う。

その動きに合わせて差し込む僅かな光に照らされ、床に寝そべる大嫌いな彼の傷んだ金の髪が視界に煌めいた。

きらきらと光る髪が綺麗かも知れないなんて考えていると、下から絞りだすような声が聞こえた。

「い、ざや…!」

──忘れもしない、大嫌いな声が憎々しげに俺の名前を呼ぶ。
その声に誘われるように視線を髪から下へと移動させると、首を絞められて苦しそうに眉根を寄せるシズちゃんがいた。
腕は後ろ手にキツく縛られているようでロクに動くことも出来ないらしく、抵抗しようと藻掻く鈍い音が断続的に響く。

「…シズちゃん…」

ぼんやりと呼び掛けた声に、射殺されそうなくらい強い眼差しが向けられる。

──ムカつく。
その真っすぐな瞳が苛々する。単細胞で馬鹿な癖に、全てを見透かしてるみたいで。

ふっと口元を笑みの形に歪めると、首元に添えられていた指に力を込める。

「…ッ」

どくん、どくんと締め付けた指から、シズちゃんの血液が流れる感触が伝わってくる。

それが気持ち悪くて……心地よくて。
自然と笑みが零れていた。

「あ、はははっ!シズちゃん、苦しい?ねぇ、どんな気分?俺が憎い?殺してやりたい?」

矢継ぎ早に質問を投げつけた俺に、シズちゃんは酸素を求めるように口をパクパクさせて。

けれど、相変わらず真っすぐで強い瞳が俺を射抜いて、声にならない声が紡がれる。

その唇の動きを追いながら、どうせいつもの「殺してやる」でしょ、なんてそんな事を考えて笑みを貼りつけていた俺の予想を裏切って、全く別の言葉が紡がれる。

『いざや』

俺の名前。何度も何度も呼ばれてきたその名前。
声にならない声が酷くやさしく聞こえたのは気のせいだろうか。

『愛してる』

殺してやる、じゃなくて。確かにそう紡いだ唇に、意識が絡め取られて、息をするのも忘れる。

続け様に向けられた穏やか笑みに、完全に言葉を失くした。


──こんなシズちゃん、俺は知らない。
他人と関わることを極度に避けているシズちゃんが、愛を語るなんて有り得ない。

しかも、大嫌いな俺に向かって。


そう思ったら目の前にいるのがシズちゃんじゃないように感じて。一気に目の前の相手から興味が失せていくのが分かった。


──こんなの俺の大嫌いな─…俺の好きな、シズちゃんじゃない。



違う違う違う違う。




そう繰り返す言葉に呼応するように、辺りは一気に暗闇に包まれ、後にはただ静寂だけが残った。









「ん…?」

目を刺すような強い日射しに目を開けると、いつもの見慣れた天井が目に入る。
辺りを見渡せば見慣れた自分の部屋の備品が視界に映るだけで、そこには先程までいたはずのシズちゃんの姿は何処にもなかった。

「何だ、夢か…」

妙にリアルだったあの首の感触を思い出して、掌を見つめる。
どくん、どくんと流れる血潮は温かく力強くて、気持ち悪くて心地良いものだった。


─…けれど、あれはシズちゃんじゃない。
『愛してる』だなんて、言う筈もない。あの口から吐き出される言葉はいつだって、理不尽な暴言ばかりだ。

だから、大嫌いで愛しいんだ。




そっと起き上がると、近くに置いてあった上着を羽織り、家を後にした。
迷うことなく向かった先は、シズちゃんのいる池袋。
シズちゃんは、俺の姿を見つけるや否や、ずんずんと大股で近づいてきた。

「いーざーやー君、どうして手前がブクロにいんだよ?」

いつも通りの声と瞳。
やっぱりシズちゃんは、そうでなくちゃって心の中で一人ごちて。

ついでに何だか無性に気分が良かったから。ガードレールを引き抜こうと手をかけていたシズちゃんの頬に、掠めるように口付けた。



end.





デュラララ!!を読んで勢いだけで書いてみました。
イザシズ良いと思う!あのお互い殺す殺す言ってるのに、何年も喧嘩してるところに愛を感じます←←
シズちゃんは可愛い!!という事が言いたかったのに、臨也しか出てこないとか…orz
またリベンジしたいです。

お付き合い、ありがとうございました!