ユメウツツ救われる筈など無いと思っていた。 いつか、姉さんと亞夜子、三人で暮らしたいという願い。 ─…何よりも、姉さんを救いたいという願い。 その為だけに違法な行為にまで手を染めたのに、俺は姉さんを救えなかった。 こんな俺が救われる筈など無いと。 ─姉さんに許される筈が無いとそう思っていたのに。 投げ出された手足が痛い。 先程までいた屋上を見上げれば、月が随分と欠けてしまっていた。 ─あの日と同じ。 月蝕の日。姉さんを死にながらの生者にしてしまった日。 「…繰り返しだ」 呟いて、ふっと嘲笑を浮かべる。 何も、変わりはしない。 姉さんは救われず、亡者となって人々を咲かせ。 俺は何も出来ないまま、死んでゆく。 「変わらないんだ…」 ─そう、何も。 何も変わりはしない。 段々と閉じてゆく意識の中、ぼんやりと音色が聞こえてくる。 病院内でも流していた、月の音にも似た音色。 淋しげで。でも、力強い音色。 その音色が全身に染み渡るように溶けていって。 ─そして。次の瞬間には、光に包まれていた。 静かな、静けさだけが漂う中、ぎゅっと小さな手に左手を掴まれる。 誰かと思い、隣を見やるとにこにこと楽しげな笑みを浮かべた亞夜子の視線とぶつかった。 「キレイだね、ようちゃん」 そう言って、視線を俺から外し、亞夜子は真っ直ぐ前を見つめた。 その視線に導かれるように、前を見つめると、沢山の木々と、そして泉に浮かび、ゆらゆらと揺れる月の姿が飛び込んできた。 そこは病院内の見慣れた光景ではなく、見たこともない、けれど酷く懐かしい光景で。 そして、辺りは驚くほど静かで、酷く、穏やかだった。 「…あぁ、綺麗だな」 静かにそう返して、じっと目の前の光景を魅入られたように見つめる。 そんな俺の背後から、そっと誰かが近づいてくる足音が聞こえて。 誰かと思い、振り返ろうとした所で、そっと後ろから抱き締められた。 「…耀」 それは、聞こえる筈のない声。─…けれど、望んでやまなかった声だった。 「姉…さん…」 酷く優しい、穏やかな声は自分を責めるものではなく、昔と変わらない、優しい姉の声だった。 回された腕と寄せられた身体からあたたかな温もりが伝わってきて。 満たされた、穏やかな気持ちが心に広がってゆく。 それは、目の前に広がる光景にも似た、懐かしく穏やかなもので。 その温もりを離さぬように、回された腕に、空いた手をそっと重ね。 この時を永遠のものにするように、静かに瞳を閉じた。 end. EDの妄想です。みんな救われていった中に、この三人も入っていたと思うので。 こんな感じで耀さんの願いが叶ったらいいな〜。 |