果たせない約束
※「優しい嘘」の続編ちっく
死ネタ
「嘘吐き…っ」
また明日、と言ったのに晋作さんは遠くへ行ってしまった。労咳という死病。いつかこんな日が来る事は分かっていた、分かっていたのに…
目の前で眠っているような晋作さんを見る。
笑え、って言われたけど上手く笑えない。泣く時は俺の腕の中で泣け、って言われたから泣けない。
「…杏絵さん?入るよ」
「…桂さん」
「泣いていると思ったけど…君は強いんだね」
「晋作さんが泣くときは俺の腕の中で泣けって言ってたから…」
「杏絵さん…」
桂さんはあたしの隣に座ってあたしの手を握った。桂さんを見ると目にはいっぱい涙が溜まって今にも頬を走りそうだった。それを見てあたしは目を見張った。
「か、つらさ…ん?」
「泣いても良いんだ、こういう時は」
「…っ!」
「泣いても…良いんだ、杏絵さん」
抱き締めるときっと晋作が怒るから、と言って桂さんはずっとあたしの手を握ってくれていた。あたしの頭の少し上でもうひとつ泣き声が聞こえた
しばらく泣き続けて落ち着いた頃、桂さんは懐から紙のようなものを出してあたしに渡した
「…手紙?」
「晋作がいなくなったら杏絵さんに渡すように、って預かっていたんだ」
こんなにやせ細って、こんなに白くなっても晋作さんはあたしの心配をしてくれていた。
その手紙には愛の言葉と、未来に帰る方法が書いてあった。
「未来になんて…」
「晋作はね、そうやって書いてるけど…」
「…え?」
桂さんは木のような竹のような物で出来た入れ物を開けて見せてくれた。中にはさっきの手紙と同じ紙が何枚も入っていた。
晋作さんの字で書いてあった事
行くな
俺の傍にいろ
未来に帰れ
お前は俺の女だ
幸せになれ
いろんな事が書いてあった。言ってる事はどの紙もバラバラだった。
「何度も書き直して一番最初に渡した手紙にしたようだよ」
「…晋作さん」
「きっと彼の口からは帰るなとは言えなかったんだろう。晋作はそういう性分だからね」
「…そうですね」
「杏絵さんはどうしたい?」
「…」
「好きにすると良い。藩邸に居ても構わないし、未来に帰っても構わない」
「…あたし…」
「うん」
「藩邸に残っても良いですか?」
桂さんは柔らかく微笑んだ後、快く承諾してくれた。その方がきっと晋作も喜ぶよ、と言い桂さんは部屋を出て行った。
晋作さんはもういないけど、きっと気持ちは此処に残ってるよね?晋作さんが見られなかった未来を代わりにあたしが見るよ。晋作さんの代わりにはならないかもしれないけどみんなを支えるよ。
あたしは晋作さんのために出来る事をする。それは『生きる』と言う事。
大丈夫、あたしたちはどこにいても繋がっていられるよね。「さよなら」は言わない。
だから次に会った時、全部晋作さんに話すからね。その時は聞いてくれるかな、あたしの気持ち。
果たせない約束
(それでも貴方を忘れない)
2011.01.27
ランタナ(互いを忘れない)
← →