お蔵入り映像 その後

 

 たった今お開きになった大学のサークルでの飲み会の帰り道。
 酔い醒ましにとマサと恵介は身を刺すような寒さに震えつつふらふらと覚束ない足取りでなんとか夜を歩いていた。

 午前様はとっくの昔に過ぎ、横を通る車もほぼないような真夜中。
 等間隔に並ぶ淡い橙色の街灯をぼうやりと見つめつつ、今日は楽しかったな。なんて恵介が酒のせいで更に腫れぼったくなった、それでもどこか色気漂う潤み赤い瞳のまま夜空を見上げ、白い息を漂わせる。

 結構でかいサークルに属しているため普段滅多に全員が揃わないのだが、新歓コンパということもありかなりの人数が集まり、そして無礼講だとわいわい騒いだ余韻が今も胸を温かくざわつかせているなか、恵介は先程の飲み会でいきなり始まった挙手制のアンケートを思い出していた。


『頭が良さそうな人』では対多数の人が真田だと思うに手を挙げていて友達としてなんだか誇らしくもあったり、『ぶっ飛んでる人』の時には木林だと思うと手を挙げている人も居て、それに、うんうん分かる分かる。そういえばこの間肝試ししようなんて提案しくさってきたのはあいつだった気がする。なんて一人頷いていた恵介だったが、それからふと小さく俯き、隣で歩いているマサに話しかけた。


「……飲み会、楽しかったな」
「そうだね」
「そういやさっきのアンケート、めっちゃウケたな」
「あー、ね。恵介、歌が下手で断トツに票入ってたよね。あとブサイクにも。まじでひどいアンケートばっかだったけど思い出しただけで笑える」
「なっ! ブサイクじゃねぇわ! 愛嬌ある顔っていえ」

 なんて笑いつつマサに軽く肩をぶつけたがあははと笑うだけでびくりともせず、夜に浮かぶその白い歯を見つめた恵介は少しだけ俯いて、

「……マサこそ、意外と手が早そうに入ってたよな」

 とポツリ、呟いた。

 なんとも多種多様であけすけなアンケートばかりだったが、皆ノリが良いお陰でドン引きという展開になることはなく、「手が早そうな人」というアンケートでは意外にもマサに票が入っていたのだ。
 勿論一位は木林だったが、それでもマサに挙げた人が居る事に、えー俺!? なんて笑っていたマサ。
 ある人が言った、付き合ったその日になんだかんだ言いくるめられて美味しく頂かれそう。という意見に、ドッとその場が盛り上がっていた事を思い出した恵介が未だ自身のスニーカーを見ていれば、

「なんでだろうね。俺ってばめちゃくちゃ紳士なのに」

 なんて笑ったマサが、気にすんなよと言いたげに自分を見ているのが分かって、恵介はキュッと小さく拳を握った。

 恵介とマサがあの肝試し事件の末、付き合う事になってから早半年。
 けれども実は未だキスや触り合いしかした事がなく、怖いという恵介の意見を尊重してマサは辛抱強く待っていてくれている。
 それが申し訳ないと思っている恵介にもう一度、俺たちは俺たちのペースでいこうよ。と言わんばかりにくしゃりと頭を撫ぜてくるマサ。
 その温かな掌の温度に、恵介は顔を上げマサを見た。

 酔っぱらっているけれど、いつもと同じように柔らかい笑みをたたえつつ優しく見つめてくるマサのその態度や表情に心臓を貫かれるような衝撃が走ったまま恵介は、マサってば俺の事やっぱちょう大事にしてくれてんだなぁ。なんて改めて再確認し、

「……今日、マサん家、行く」

 とやっとの事で絞りだしたカスカス声のまま、真っ赤な顔で呟く。
 そうすれば、

「……この流れでそういう事言う?」

 なんて途端に真顔になり見つめてくるマサ。
 その射抜くような視線をひしひしと感じつつ、

「この流れだから言ってんだろ。手、出せよ」

 とまたしても真っ赤な顔で恵介が俯いて呟けば予想外に何の反応もなく、恐る恐る顔あげてマサを見やった恵介は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をした。


 そこにはお酒のせいではないと分かるくらい真っ赤な顔をして自分を見ているマサが居て、珍しいその姿に呆け驚く恵介を他所にへなへなと座り込み、

「……えーまじかよ、棚からぼたもちすぎない?」

 なんて言ったマサ。
 そのまま手で顔を覆って、まじかー。とまたしても呟いたマサが顔を覆っていた手の隙間からちらりと恵介を見上げては、

「……マジでいいの? 俺今最高に浮かれてるからやっぱ無理って言われても今日はもう待ってあげらんないよ?」

 と急に雄臭い、それでもとても可愛らしい顔で言ってくるので、あーもうなにこいつ! と心のなかで喚いた恵介はどうして今まで怖いなんて思っていたんだろう。と馬鹿らしくなり、

「っ、……だからいいって言ってんだろ! 好きに抱けよ!」

 と叫んでマサの腕を取って走り出す。
 そうすれば、ちょ、まって、突然引っ張んな吐く! と後ろでマサが慌てて立ち上がり珍しく弱音を吐き、しかしそんなマサを振り返る事なく笑い声をあげ夜道を駆け抜ければ、火照った頬に当たる冷たい風がひどく心地好かった。

 見上げた夜空は、とてもとても美しかった。



【 今宵あなたとワルツを 】






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