ともだちごっこ

 

 紡ぎ直して、繋ぎ直して、緩やかなその糸をこれでいいのだと何度も言い聞かせて、それでもその糸が徐々に掌からするりと抜けてはどろりとしたモノを織り込みじとりと指を濡らしてくる事に、俺はもうどうすれば良いのか分からなくなってしまったのだ。



『ともだちごっこ』





 ガヤガヤと煩い喧騒が、扉越しに聞こえる。
 煤けた暖簾と色褪せた提灯が灯るなんとも古びた居酒屋はいつしか深瀬の行きつけの店となっていて、あくせくとめまぐるしい日々を過ごす社畜だとて息抜きもたまには必要だろう。なんて誰にするでもない言い訳を心のなかで呟きながら、立て付けの悪い横開きの扉に手を掛ける。
 ガタガタ、と軋むその音にこちらを見る中年男性数名と目が合い、深瀬はどうもと言いたげに手を上げた。

「おー深瀬くん、久しぶりじゃないか。元気してたか?」

 口々にそう声を掛けられ、この店の常連だと店からも、通っているお客さんからも同じように思われている事にへらりと笑った深瀬は、もう既に出来上がっている数名にバシッと肩を叩かれ、頑張れよ若者。と強めの激励を受けたが、屈託のない笑顔が並ぶさまに、どうも。とまたしても照れながら会釈をした。

「おせーよ!」

 深瀬がへらりと笑ったその瞬間良く知った声が耳に届き、その声の方を見やればビールジョッキ片手にこちらに向かって手を振っている男が居た。
 それは勿論、旧友であり今日待ち合わせをしていた矢口で、深瀬は矢口が座る一番奥の座敷目掛けて歩き出し、先に飲んでんじゃねーよ。なんて口の端をあげて笑った。



 共に商業高校を卒業して、早七年。
 それでも未だこうして月に一度はどこかしらで会うほどには今も親交を続けており、この居酒屋こそが深瀬だけではなく、二人の、行きつけのお店だった。
 こういうものを腐れ縁だとでも呼ぶのだろうか。とらしくもないフレーズを頭に浮かべながら深瀬は靴を脱ぎ、どっこいしょ。とおっさんめいた言葉を吐いて矢口の向かいに座る。

「お疲れお疲れー」

 なんてすっかり一人先に楽しんでいる矢口の精悍さが増した、けれども昔とちっとも変わらない笑顔が目に刺さり、その笑顔からゆるりと視線を逸らした深瀬は曖昧な笑顔を浮かべおざなりに返事をしたあと、テーブルの上に並んだ焼き鳥を見た。
 それから注文を取りに来てくれた店員に、とりあえず生で。とすっかりおっさん臭さが染み付いた頼み方をしてから、やってきたジョッキを掲げる。

「とりあえず、乾杯」

 矢口の半分ほどに減っているジョッキへと自分の並々に注がれているビールジョッキを当てれば、乾杯。と返しては悪戯っ子のような笑顔を浮かべる矢口。
 その笑顔を見つめつつ、深瀬はぐびっとビールを飲み込んだ。

 喉を潤すその苦さとアルコールの匂いに、ああ生き返る。と思うようになったのはいつからだろうかなんて事を考えながら深瀬はテーブルの上に並ぶ枝豆を手に取りプツンと押しては実を食べ、向かいに座り上機嫌な様子で喋っている矢口をじっと見た。

 深瀬が聞いているのか聞いていないのかなんてさほど重要ではないと言いたげにマシンガントークで、会社の先輩に怒られた、褒められた、てか先輩ほんとスゲーんだよ。なんて言いながら百面相のように表情を変える矢口。
 その口からは相変わらず後悔や希望や尊敬はよく出るものの他人を貶す言葉など一切出てはこなくて、そういう所も好きだな。と深瀬は相槌を打ちながら、小さく笑みを漏らして目を細めた。
 高校で出会ってから数えると実に十年の月日が流れていて、その明朗さに、その屈託のない笑顔に、深瀬はいつしか矢口に友人の域を越えたものをずっと身の内に燻らせている。
 そして、その衝動が反動となり身を動かしたあの日の事を、深瀬は後悔と共に未だ一時たりとも忘れたことなど、なかった。


 それは忘れもしない、高校三年の冬。
 しんと澄んだ冷たさが肌を刺す放課後の、それでもよく晴れた黄昏時の事だった。


 身を震わせ、寒い寒いと口々に冬を呪う言葉を吐きながら家へと帰る道すがら不意に押し黙った深瀬に、矢口もまた、珍しく口をつぐんだ。
 何故そのタイミングだったのか、それは今も分からない。
 それでもちらりと矢口を盗み見た深瀬を矢口もまたじっと見つめていて、そうなってしまえばもう良く分からないナニかに押されるよう、深瀬は手袋を忘れたと先程まで息を吹き掛け温めていた掌を、すりっと矢口の手に擦り合わせていた。
 ぎゅっ。と握り込めばひやりとした冷たさが指に走り、しかしそれからすぐにじわりじわりと人肌が灯り始め、びくりと身を揺らした矢口はそれでも何も言わなかった。
 黄昏の空は燃えるような赤で、世界がその色一色に染まっていた事を、覚えている。
 それでも分かってしまうほど矢口の顔は真っ赤で、やはりナニか分からぬものに急かされるよう顔を寄せた事だって、覚えている。
 ふと翳る気配に矢口が顔をあげて、そのどこか茶色がかった美しい瞳が空の色と溶けてオレンジのように見えた事も、何もかも全て、深瀬は覚えていた。


 可愛らしいリップ音が辺りを裂いたあと顔をあげた自分の顔もきっととても見れたものじゃなかっただろうと気付いていたが、それでも、矢口は何も言わなかった。
 いつも煩く喚いている口は一ミリたりとも動く気配すらなく、それにヒュッと喉を鳴らした深瀬は冷たい空気に肺がひたりと冷やされていく感覚のなか、手を離しては何事もなかったかのように歩き出した。

 それから二人は、藍が空を覆い始め視界を埋め尽くすその中を、やはり何を言うでもなくただ黙って歩いた。


 しかしその後深瀬は自宅に戻りベッドへダイブしたあと、頭を抱えていた。

 何をした。何を、

 そう考えれば考えるほど先程のやり取りがまざまざと脳裏に浮かび、一人うわぁと心のなかで叫んでは足をジタバタとさせた深瀬は、一種の恐怖を感じていた。
 このまま矢口と一線を超えてしまったら、もう元には戻らない。友達ではなく恋人として生きる未来のその先は、どこになるのか。
 いずれ別れの道を選んだその時、今のように馬鹿をやって笑い合って、肩を組んで歩く事は、もうきっと出来ない。
 卑屈すぎるかもしれないが、その時の深瀬は知らない未来への不安に押し潰されそうで、いっぱいいっぱいだったのだ。

 だからこそ、深瀬は卑怯な選択をした。


 翌朝、少しだけ照れたように視線をさ迷わせながら、おはよう。と呟いた矢口に、なに食わぬ顔をして、昨日の事など忘れろと言わんばかりの笑顔を貼り付けて、深瀬はおはようと言った。
 その笑顔に一瞬だけ矢口が息を飲んだ事も、深瀬は痛いほど覚えている。
 それでもその微かな沈黙を消し去るよう、矢口は笑った。
 それは、今まで見てきた友人の、矢口の笑顔だった。


 それから月日は流れ、あの日の震えていた指の感覚も、冷たい唇の感触も無かった事にして深瀬と矢口は友達としてここまで生きて来た。
 高校を卒業しすぐにお互い彼女が出来たし、なかなか長続きはしなかったがそれでも社会人であるしノリも悪くない二人はお互いコンスタントに彼女が居た。
 旧友たちと一緒に飲みにだって行くし、こうして二人でだって酒を飲む。そして今も尚、あの日の事はお互い一切口にする事はなく、本当に何もなかったかのように過ごしている。
 現に未だ目の前でべらべらと喋り続けている矢口は、もう本当に忘れてしまったのだろう。
 上機嫌でにへらと笑みを浮かべながら話す矢口は学生の頃となんら変わらず、深瀬はその笑顔をただ黙って見ていた。

 相も変わらずガヤガヤと人の話す喧騒が、波のように揺れている。

 そんな賑やかな空間のなか、それでも向かいに座った深瀬だけがどこか神妙な面持ちをしている事に違和感を覚えたのか、矢口は枝豆を食みながら、少しだけ眉間に皺を寄せた。


「なんか暗くね? どしたのよ」

 豆の入っていない、殻だけになりもはや枝になってしまったそれをピシッと深瀬に向けながら、問いかける矢口。
 その質問に深瀬が口を開こうとした瞬間、

「あっ、分かった。振られたんだろ?」

 なんてニシッと笑みを浮かべる矢口に、深瀬はちげぇよ馬鹿。と小さく呟いてビールを煽った。


「彼女はもう三ヶ月くらいいねーよ」
「えっまじで!? めずらしいじゃん。今抱えてる案件そんなにやべーの?」
「……そんなんじゃねぇけど」
「まぁ確かにそこまで顔色悪くねーもんな。深瀬疲れっとすーぐ顔にでっからなー」
「……まじかよ、知らなかった」
「自分で気付いてなかったのかよ、ウケんだけど。彼女とかに言われた事もねーの?」
「ねーよ」
「ふーん」

 まるで興味がないような相槌で枝豆をまたしても食べ始める矢口に深瀬は、むしろ疲れてなさそうだって良く言われるしそのせいで彼女には仕事が立て込んでたって言っても信じてもらえなくてしょっちゅう喧嘩ばっかりだったんだけどな。なんて心のなかで呟いては、矢口を見る。
 モゴモゴと口を動かしながらそれでも喋ってくる姿はなんとも幼く、たまらずぷっと吹き出せばつられて矢口も嬉しそうに笑った。

「んだよ。つかさ、俺の方は最近彼女出来たばっかりでさ〜」

 なんて上機嫌に語り出す矢口に深瀬は一度目を見開いては、それから小さく深呼吸をした。


「へぇ、そうなんだ」
「そそ。もーめちゃくちゃ可愛くてさ、俺の好みどストライクな子なんだよ〜!」
「ふーん。じゃあお前今幸せなんだ?」
「はっ、なによ急に」
「幸せかって聞いてんの」
「幸せって……まぁこのご時世で正社員として雇ってもらってるお陰でこれといって難なく暮らせて、おまけにめちゃくちゃ可愛い彼女だっている。これが幸せじゃないって言う奴なんかいなくね?」

 そう目を伏せて呟く矢口が、小さく笑う。

「 あっ、もしかして彼女の友達紹介してとかそういう系〜? 幸せのお裾分けしろ系〜?」

 先ほどのどこか翳りを含んだ表情から一転、パッと顔をあげニヤニヤしながら、しかたねーな。今度彼女に聞いてみてやるよ。なんてにへらと笑うその弛みきった矢口の顔を、深瀬は真っ直ぐ、見つめ返した。


「いや、そうじゃなくてさ。悪いんだけど、その子と別れてくんね?」

 静かに、告げた言葉。
 その言葉を音としてだが理解したのか途端真顔になり、へっ、と間抜けな声をあげた矢口もまた、深瀬をじっと見つめ返した。


「ぶっちゃけ今日はさ、お前の幸せをぶち壊しにきたんだよね、俺」
「……へ? な、なに言って、」
「お前が好きだよ、矢口。だからさ、俺のもんになってよ」

 包み隠しもせずぶつけた言葉は、ガヤガヤと煩い居酒屋のなかでそこだけが切り取られたかのように神妙な雰囲気があって、矢口が息を飲んだのが分かる。
 何を言っているのだ。と眉間に皺を寄せ始める矢口に、だろうな。と心のなかで呟きながら、深瀬はそれでも矢口の言葉を待った。


 あの日、あの時。
 無かったことにしろと先に酷い仕打ちをしたのは自分だと、百も承知である。
 けれど正しいと思っていたその判断が最近は上手く咀嚼出来ていないと自覚していて、どんなに彼女を作ろうとも、どんなに他人と手を繋ぎ口付けをしても、心の奥底にはいつだって矢口が居てフラッシュバックするようにあの日の冬に巻き戻されてしまうのだと深瀬はようやくこの年になって気付いたのだ。
 それなのでここ最近はろくに眠りも出来なければ彼女だって作れず、だからこそ深瀬はとうとう半ばやけくそになりながら、覚悟を決めた。

 なぜ今なのか。なぜこのタイミングなのか。

 それはやっぱり分かりはしなかったけれど、もう一秒だって待ってやれない。と深瀬が矢口を見れば、その視線にびくっと身を揺らした矢口がヒュッと息を飲んだのが分かった。


「なに、いって、冗談キツいっつうの、はは、」

 顔を引きつらせ笑った矢口の声が、ぽつりと溶けていく。
 しかしやはり深瀬はただじっと何も言わず、見つめ返してくるだけだった。


 見知った、だけども知らないその眼差しの熱さにぐらぐらと目眩がしそうで、それでも今更なにを、と言いたげに矢口は唇を震わせる。

 ……だって、十年だ。もう、十年。
 十年、俺たちは友達だったじゃねぇか。あの冬の日にたった一度繋いだ指も、たった一度触れ合わせた唇も、落ちる夕陽に負けじと染まる耳と顔に泣きそうになった事も、全部忘れてやったじゃねぇか。何もかもなかった事にしたお前を、それでも笑ってやったじゃねぇか。
 そう心のなかで叫び、胸を締め付ける痛みに矢口がはくはくと口をあけ、息をする。

「……ふざけん、なよ……なんで今さら……ばかじゃねえのまじで。どの面さげてそんなん、俺があの時、どんな想いで、」

 そう必死に絞り出した声はなんとも惨めで、それに悔しくなりつつも矢口は机の上に置いていた拳を白くなりそうなほど強く握りしめた。

「ほんとなんで今さら……笑えねーよまじで」

 ぽつりと呟き居酒屋の古びたテーブルを見つめる矢口を未だにじっと見つめ、しかし深瀬はテーブルの上に置かれた矢口の手を握っては自身の唇へと引き寄せた。

「……俺だって笑えねーよ。散々悩んだ結果がこれで、十年、見ない振りして気付かねー振りして、それでも結局、お前が良いって思っちまったんだからもう腹括るしかねーなって思ったんだよ。……だからさ、頼むから、もうお前も観念してよ」

 なんて言いながら、震える矢口の指先に口付ける深瀬。
 その灯る熱さにまたしても身を震わせ、矢口はぐしゃりと唇の端をひしゃげた。

「……ん、とに、最悪だよまじで……なんで、」

 そう悪態を吐き、ぐっと唇を噛み締めたまま矢口が押し黙る。


 未だ店内は忙しなく走る店員の足音や、酔っぱらいの笑い声が響いていて、そんなありきたりで見慣れた世界のなかで矢口はずびっと鼻を啜り、観念しろって、なんで俺がまだお前の事好きって前提で話してんだよ。と目頭を熱くさせながらも、ちくしょう。とまたしても心のなかで悪態を吐いた。

「……幸せだって、思いたかったよ。これといって不自由なく暮らせて、彼女だって居て、そんな生活が、幸せだって、思いたかったよ。でもいっつもどっか虚しくて、馬鹿みたいにあん時の事思い出して、でも俺もお前も一時の迷いだったんだって言い聞かせて過ごしてきたのに、ほんと、ふざけんなよ……なにが幸せぶち壊しにきただよ……はなっからこっちはもうお前に拒否られたあの日にぶち壊されてんだよ……」

 ……ああ、駄目だ。堪えきれない。

 そう心のなかで呟きながらぼろぼろと涙を流してしまって、掴まれていない方の手で乱暴に目元をごしごしと拭ったが、それでも目の前の深瀬が珍しく呆けた顔をしているのが見えて、なんだよその顔。ばっかじゃねーの。と矢口は思わず小さく笑みを落としてしまった。


「や、ぐち、」

 深瀬の口から落とされた声はどこか切羽詰まったような声色で、あの日あの時見たような表情をした深瀬がぎゅっと強く掌を握りしめてくるので、矢口もきっとあの日と同じように自分だってとても見れたものじゃないだろう顔をしていると自覚しながら、その手を強く強く、握り返した。





「やべー……今めっちゃキスしたい」

 繋いだ互いの掌にごつんと頭を押し付け突っ伏すような形になった深瀬が盛大な溜め息と共に感動も何もかもぶち壊すような本音を吐き出し、それに顔を赤くした矢口がぺしっと頭を叩いては、馬鹿かよ。と笑う。

 深瀬の背中越しに見えるのは壁に貼られ煤けた居酒屋のメニュー表で、ほんっと色気も糞もねぇな。と笑いながら、……出るぞ。と矢口が呟き掌をほどいてサッと立ち上がれば、その意図を汲み取ったのか深瀬も急いで立ち上がり、それでもお互い無言のままで会計を済ませた。


 立て付けの悪い扉を開き、頑張れよ! 若者! とすっかり出来上がり酔っぱらいと化している常連さんの声援を背に、外に出た二人。

 空は星さえ見えないほど真っ暗で、寒さにぶるりと身を震わせながら互いの白い息がゆらゆらと空に昇ってゆくのを見た深瀬が隣に立つ矢口の手を握ろうとした瞬間、ちょっと待て。その前にケジメ、つけねーと。なんて真剣な顔で矢口が目を伏せて呟いたので、深瀬は小さく、ごめん。と呟いてはダウンジャケットの中に手を突っ込んだ。


 それからすぐ脇の路地裏へと向かった矢口が携帯片手にぽつりぽつりと話す声を聞きながら、深瀬はただじっと黙って空を見ていた。
 頬が、鼻が、耳が痛くて、それでも矢口の電話越しの相手に比べたら屁でもない痛さだ。と鼻を啜り、けれど俺がその子にごめんなんて思う資格はないと空を仰ぎ続ける深瀬。
 それから程なくしてすっと現れた矢口は少しだけ目が潤んでいて、深瀬はその掌をなにも言わずに掴んでは歩き出した。


 しんと澄んだ冷たさが肌を刺し、まるであの頃に舞い戻ってしまったかのような気持ちになりながら、けれどあの頃よりも俺達はずっと大人で、沢山の物を、傷を、抱えて生きている。と深瀬は掌をぎゅっと強く握り締めた。


「……好きだよ、矢口」

 ぽつり。そう呟けばとぼとぼと少し後ろを歩いていた矢口が隣に並び立ち、

「……俺もお前が好きだよ、深瀬」

 なんて鼻を啜りながら返事をしたので、深瀬は胸が詰まりそうな、それでも満たされてゆくような気持ちになりながら未だ車が隣を走っているというのにそっと身を屈めて、キスをした。

 ちゅ、と小さく鳴るリップ音。

 伏せていた目を開けて矢口を見やればあの日あの時と同じように顔を真っ赤にしていて、外はもう深い黒をたたえているというのに見つめてくるその茶色がかった瞳があの日の夕陽を宿してオレンジ色に光っているように見えて、深瀬はやっぱり自分の顔もきっととても見れたものじゃないだろうと思いながらも、繋いだ手をもう一度強く握りしめた。


 見上げた空は深い深い夜に充ち、それでもとても澄んでいて、その景色はなんだか泣いてしまいそうなほど、美しかった。





【 運命なんかじゃない僕らは、それでも幸せに生きると誓うから 】






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