短編 | ナノ
※倉持夢かは疑問。
倉持視点なら悲恋。
ストラップの御幸彼女がヒロインです。
「くらもっちーコレ見た?」
「そーゆーものを俺に見せるなよな」
名前が持ってきたのはでかでかと「完敗です」の言葉が印字された御幸の写真が使われた新聞。
「この写真カッコイイよね」
「惚気ならよそでやれ」
違うもん。と俯く名前にため息が出る。
またかよ。
とにかく名前は何かあれば俺に愚痴る。
前回は二年の時で、ストラップがどーのこーの相談されて、結局御幸に睨まれて終わったんだよ。
3年になっても全員同じクラスだったから、やっぱり名前は何かと俺の所に来る。
大半は相談と言う名の惚気だ。
「お前マジで俺に話すのやめろよ。本人に言え。巻き込むな。」
「だから、本人には言えないんだって」
全く成長してねーじゃねーかと頭をこずいたら、えへへと小さく笑われた。
ぐあー!もう!そーゆー顔をするなよ!!
「で?」
「くらもっちー大好き」
そういうと俺の前の席に腰掛けた。
こんな冗談はいつものことだけど、これを御幸に聞かれるとややこしいから困る。
「あーはいはい。どうも」
「やっぱりさ秋大後から増えたよね」
一也に告白する子。そういう名前の話し声はだんだん小さくなって最後は目を伏せた。
「まぁな、仕方ないんじゃねーの?」
「他校の子が見に来てたりするしさ」
確かに御幸も俺も最近はクラスにいても男女関係なく話しかけられることが増えたし、校外の女子が見に来てたのも知っている。
先生達が追い払っているのもあって最近
は落ち着いたけど。
「こうやってメディア露出が増えてファンが増えて、一也のことが好きな子が増えてさ…その中にはめちゃくちゃ可愛い子とかいるんだろうな。って」
どんどん遠くなるなー。とつぶやく名前は俺に話しているようで、遠くを見つめている。
「むかつくけど、アイツはいつかプロ行くだろうからな」
「だよね」
「だなぁ」
確かにこれは御幸に話しても仕方がないだろう。アイツが意図してしている訳ではない、ただ、置いていかれる側の恐怖。
追いつこうと焦る気持ち。
持て余すやりどころのない不安。
それはアイツよりは俺の方がわかるのかもしれない。
俺は野球にぶつけられるけれど、名前は?
「仕方ねぇなぁ、話ぐらいなら聞いてやるよ」
そういえば名前はやっぱりどこか落ち込んだように無理した笑顔を見せた。
「努力でどうにかなるなら頑張れるけど、こればっかりはね…。メディアから一也みると、もう遠い人だなーって思っちゃうよね」
「お前はさ、進路どうするんだよ」
「んー…まだ、わかんない」
くらもっちーも進路とか言うんだねって笑いながらようやく名前が俺を見た。
「当たり前だろ、言う位はする。俺もまだ夏の甲子園しか考えてねーけどな!」
「くらもっちーらしいね」
「ま、御幸は正直な奴だから、他が気になるならそういうだろうし、それまでは気にしなくていいんじゃね?私の彼氏スゴイ!くらいでいれば?」
「…うん、ありがと」
「まーたお前は。今度はくらもっちーに何話してんだよ」
「お前までくらもっちーとか言うな、キモい」
御幸が来て、俺達の会話は終わる。
これがいつものパターン。
卒業したらこんな事はなくなるんだよな。
そうなったら、名前はその不安を何処に吐き出すのか。1人で泣くのだろうか。
「とりあえず、御幸が嫌になったとか何かあったら連絡していいからな。」
「!!」
御幸の前でそんなことを言ったから、
まるでこれは宣戦布告。
御幸にはギロりと一瞬試合で見せるようなキツイ視線を受けるし、名前はびっくりして口が開いてるし、
あーぁこれは俺も甲子園で何か変なスイッチ押してきたかな。
馬鹿だな。と思った。
「バーカ」
御幸が手を引いたから名前は立ち上がった。
自然に腰に手を回すと名前を教室の外へ出るように促している。
歩き出す前に名前は振り替えり、ありがとうと口を動かしたがそれは音にならなかった。
ついで、御幸が「いつも悪いな、くらもっちー?」なんて嫌な笑顔で言うもんだから、やっぱりこいつらには関わりたくないと思った。
余裕過ぎて腹立つ。
名前がどれだけ悩んでいるかなんてわからないくせに。
その悩みを聞いたとしても、理解出来ないだろうに。
それでも、あの2人が並んでいるだけで幸せそうに見えるから、やっぱり俺はただ惚気られただけなのかもしれない。
とりあえず、名前が笑顔で教室に戻れば良い…なんて、どーかしてるな俺も。
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