短編 | ナノ






数週間前の自分に言ってやりたい。
どうしてあの時もっとちゃんと話を聞き出さなかったのかと。





高校二年から付き合い出した御幸一也は、高校卒業と同時にプロ入りを果たした。プロ3年目。
私は栄養士になる為に大学に進学して、大学三年生になった。
遠距離恋愛も3年目、付き合い出して5年になる年。

学生時代から御幸は野球一筋で、恋愛なんて二の次だった。
それでも学校が同じなら毎日会えたから、不安も寂しさも少なかった。


最近はLINEで簡単なやり取りをして、オフに会うくらいだから、もはや付き合っているのかも自信がなくていちファンみたいな気持ちもあったりしてた。

大学で何度か告白というものをしてもらった時に「苗字さん彼氏いるの?」と言われても、自信を持っていますとは言えなくなってたりして、言えたとしてもあの1年目で新人賞を取った期待のプロ野球選手の御幸一也だなんて、とてもじゃないが言えなかった。

自分でも妄想なんじゃないかと思うくらい、毎日の用にテレビでみる、そんな遠い人になっていたから。

だけど、余裕があれば一也は自分のマンションに私を呼んでくれたし(今年のオフに寮を退寮して一人暮らしを始めた)、鍵も渡された。
使ったことはないけれど。

一也は「一緒に住む?」と言ってくれたけど、どう見ても高そうな高層マンションの部屋代を負担できる気もしないし断った。
多分一也は私に出させる気なんかないだろうけど、なんだか一也のお荷物でしかないようで嫌だった。

何度か泊まりにも行ったけれど、歯ブラシ1つ部屋には置かないことにしていた。
怖かった、自信がなかった。
歯ブラシが移動していたり、隠されていたりしたら…と思うと、置きたくなかっし、彼女面して人の家に荷物をどんどん増やせるような性格でもなかった。
だからの部屋に行く時は毎回旅行みたいな荷物で、それを見る度一也は「ここに置いておけば?」と簡単に言った。
それを聞こえないふりし続けた。


だけど、そうしておいて良かったんだと今、思う。


数週間前一也からLINEが来てた。

ちょっと色々あってワイドショーを賑わすかもしれない。

その時はよく意味がわからなかったから、

そうなんだ。どうしたの?

と、返信したけど返事も来なくて数週間、気になりつつも忘れかけていた頃テレビのニュースに一也の名前が出てた。






“球界一のイケメン捕手に熱愛報道!お相手は人気フリーアナウンサーのさとパン!”






朝のワイドショーはその話題でもちきりで、何月何日に御幸選手のマンションに時間差でさとパンが入って行って数時間後に出てきたと伝えていた。
ふたりが別々にマンションに入る写真も流されて、あぁ、たしかに一也のマンションだな、なんて馬鹿なことを思った。

私はそれをどこか遠くで
そうなんだー……と流すように聞いていた。
頭が真っ白で、とても冷静ではいられなくて、でもどこかでそうだよなーさとパン可愛いもんなーなんて思ったりして、気づいたらその日は大学も休んで部屋でぼーっとしていた。

ふと気づけば外は暗くて、スマホのランプがチカチカしてた。

一也からのLINEや電話が入っていたけど、折り返しはしなかった。

今はまだ、聞きたくなかった。
別れようって言葉、いつか言われるって思っていたし、わかっていたし、だからこそ一也の部屋には“私”をあらわすものは何一つないけれど、それでもわかりきった別れをまだ聞きたくなかった。

少しでも冷静になりたかった。
今電話に出たら泣いてしまいそうで、別れに泣いたりしたら一也の中で私の思い出が重かったとかウザかったとかそんな風になる気がして、最後くらいは綺麗に終わらせたくて…

本当はそうじゃない。
別れたくない。

まだ、一也が好きだった。


ひとしきり泣いていたら
電話の着信がなった。

一也ならどうしようと画面を見たら“くらもっちー”とかかれていた。

どうしよう。悩んで悩んで通話ボタンを押した。

ひとりでいたくなかったし、一也と付き合っていることは、大学ではほとんど誰にも言ってなくて、未だに付き合っていることは高校卒業後最小限しか知らない。

今は私と同じ大学で教育学部に通うくらもっちーは高校時代から私の相談をずっと聞いてくれていて、私達にとって大切な友人だった。

「もしもし」

「もしもし名前?大丈夫か?」

心配してくれるくらもっちーの声が優しくて余計に涙が出た。

「その様子だと別れてた訳じゃないんだよな、やっぱ」

わかんない。もうわかんないよ。と言ったら「とりあえず飲もうぜ」って言ってくれた。
私は外に出られるような気分じゃないと断ったけど、引き下がらないくらもっちーが「実は下まで来てるんだけど?」とか言うから一人暮らしのアパートの窓から下を見たら軽く手を上げたくらもっちーがいた。

結局私は軽く支度を済ませて外に出た。

くらもっちーと2人で並んで歩くのはもしかしたら初めてかもしれない。
くらもっちーといる時は、だいたいいつも一也と3人だったから。

そう考えてまた涙が溢れてきて、私ってばどうしようもない奴だなってまた泣いた。

くらもっちーに連れられて入ったのは、1部屋ずつ軽い個室になっている少しお洒落な居酒屋だった。

「意外だね。こういう店来るんだ」

「泣くにはちょうどいいだろ?」って笑ってくれたから、私も「ばか」って笑ったつもりだったけど、何でかやっぱり机にぽたりと水滴が落ちた。

乾杯するまでは二人ともなんとなく無言で、一杯目のお酒に口をつけながらくらもっちーが話を切り出した。
「とりあえずさ、ニュースはみたんだよな?」

「うん」

「御幸から連絡は?」

「LINEも着信もあったけど無視しちゃった」


「LINEはなんて?」

「見てない。怖い」
内容は分かっているのに怖い。見たくない。

「俺が見てやろうか?」

その方が良いのだろうか?でもだからどうなるって言うのだろう。
事実を更に突きつけられるだけじゃないだろうか…
いや、いつかは通らなければ行けないのだからやはり誰かいる時の方が良いのかもしれない。私1人には受け止めきれない。

「一緒に見て欲しい」
そうして意を決して開いたLINE画面には「とりあえず話を聞いて」とだけ書いてあった。


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