短編 | ナノ
今まで恋愛にも彼女にも興味なんてなかった。
野球だけが俺の全てだった。
なのに2年になってから、気になっている奴がいる。
クラスメイトの苗字名前。
教室では特別目立つタイプではないし、話したこともない。
そんなただのクラスメイト。
今日は調理実習がある日、カップケーキを作ることになっている。
うちの学校は家庭科が必須科目にある。
料理は得意だし、調理実習や提出物さえきちんとやればテストなんか何点でも、赤点はつけない先生だから家庭科は割と好きだ。
どうでもいい女子達が実習後に苦手な甘いお菓子を持ってきて「あげるー」などと言い出さなければもっと。
料理なんてまったくな倉持は皿洗い担当で、俺は黒板に書かれたレシピ通り作り上げていく担当。
同じ班の女子にやたら褒められたが、ただ目の前に書かれた通りやるだけなんだから誰が作っても同じになるだろなんて思いながらさっさと実習を終了させた。
「出来た!」
「ぎゃあ!名前なに作ってんの!!」
「え?だからカップケーキでしょ?ちょっとアレンジして動くカップケーキを作って見ました!」
動くカップケーキ!?
声のした方を見れば禍々しい色のカップケーキがカップの中でふわふわ?もわもわ?動いていた。
「何なんだよあれ」
もうなんかいろんな意味で目が離せない。
倉持もドン引きしたままそれを見つめている。
「はい!味見どうぞ」
同じ班の女子に差し出すなんてあいつなんつー嫌がらせを、なんて思って見ていたら、受け取った女子は抵抗も無く口に入れた。
マジかよ…。
「うん、いや美味しいんだよ。何故か。でも色も動いてたってのも食欲なくすわー。60点」
「色かぁ。確かに緑はないか。よし、放課後もう一回チャレンジしよ!」
そんな一部始終を目も逸らさずに見ていたら、味見をした女子がこっちの視線に気づいて名前と呼ばれたカップケーキの作成者に声をかけた。
「なんか、御幸くんがずっとこっち見てるよ?」
「え?」
振り向いた名前はバッチリ目が合った俺に「えーっと、食べる?」と聞きながらそのうねうね動く物を差し出してきた。
食べたかった訳じゃねぇよと思ったし、こんなもん食えるのかよとも思ったし、そもそも甘いものは苦手だし、なんなら知らない女子からの差し入れやら贈り物も好きじゃない。
なのに、料理好きだからか、それともただの興味本位からか、俺はそのカップケーキを受け取った。
後ろで倉持が「チャレンジャー過ぎるだろ…御幸」とかなんとかつぶやくのを聞きながら、だよなぁ。と思った。
ここまで来たら罰ゲーム!くらいの気持ちで勢い付けて1口かじるとほんのり甘くて、びっくりするぐらい美味かった。
食べかけのカップケーキを見つめていたら名前(よく考えたら苗字知らねぇ)が「やっぱり食欲失せる見た目だった?」と笑いながら聞いてきた。
「どうやったら出来るんだよこんなの。とりあえずキモイ40点」
そう言えば名前は「厳しいー」と笑った。
「今度はもっとマシなの作れよ」って言ったら「提出用はこっちだよ」ってなんかめちゃくちゃメルヘンな可愛らしくて美味そうなカップケーキを見せてきた。
いや、そっちを食わせろよ。
めちゃくちゃ甘そうだけど。
「名前、そのセンス最高だな」って言ったら、「また作ってあげるよ」なんてやっぱり笑うから、甘いものも手作りのプレゼントも好きじゃないけど、なんでか頷いた。
その日の午後練後に名前の奴が「御幸ー!新しいカップケーキ作ったから後で食べなよ!今度はねヒカルカップケーキ!」と笑顔で持ってきやがった。
「はえーよ!」
家庭科部なんだとよ。
しかも去年は高校生スイーツコンテストに出場した腕前なんだと。
マジかよ…ヒカルカップケーキ持ってきてるぞこいつ。
「倉持…俺、名前のことがすげー気になるんだけど…」
「いや、お前それは多分違う」
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