「じゃあ一也くん、名前のことよろしくね」
実家を出発する日。 駅まで見送りに来てくれた名前の両親にそんな風に声をかけられる。 もちろん。そんな意味を込めて、「わかりました」と言えば、名前が「絶対私の方がちゃんとしてるのに」とぶーぶー言っていた。
俺の親父には朝、名前と2人で挨拶をしたので、親父の姿はないけれど一言「気をつけて言ってこい」とだけ言われた。
青道までは電車で一時間ちょっと。 2人並んで電車に揺られていると名前が「一也、携帯貸して」と言ってきた。
「なんだよ、充電してこなかったのか?」 そう言って自分のスマホを差し出すと「ありがとう」と受け取った名前は電話帳を開く。 何だ?と見ていたら、名前と登録してある自分の名前を開いて苗字と登録し直した。
「何勝手にしてんの?」
「男子寮でしょ?あんまり女の子の名前から連絡来てるの知られたら面倒くさいことになると思うし。」 それには、確かになぁ。なんて思ったもののその後に、 「それに彼女とか出来たら彼女も嫌な気持ちになるよ」なんて言われたから驚いた。
こいつ俺の気持ちなんて少しも分かってないんだな、と気づいたから。
「そんなのできねーよ」 ちょっと不貞腐れたように返事をしたら、「見た目に騙される人いっぱいいるよ」なんて笑う名前がいつもの笑顔だったから多少傷ついた。
「俺に彼女が出来ても気にならないんだ?」
「えー。可哀想に。って思う」
その顔に他意が見つけられず、俺はため息をついた。
「お前に彼氏が出来たら俺は嫌だよ」
電車は相変わらず動いていて、だけど、俺と名前の間だけ時が止まったかのように静かだった。
俺としてはもう告白したような気持ちだったんだけど、名前の奴が何故だか少し悲しそうに下を向いて「私こそ出来ないよ」なんて呟くから、「わかんねーだろ。世の中には変わった好みのヤツ沢山いるからな」と茶化すした出来なかった。
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