魔王と対面
魔王は、勇者達よりも遥に強い。それだけは、確信していた。理由は、魔王城から放たれるオーラが彼等とは違うことと、彼等は神子を構うのに一生懸命で最近碌な鍛錬をしていないことだ。だから、確実に死ぬ。ここまで来れたのはそれまでの積み重ねがあったお陰かもなと心の中で笑った。
武器や肖像画が並べられている廊下を歩き、前にそびえ立つ重々しい扉を勇者が開く。
「よく来たな」
勇者、神子、魔術師、俺の順番で扉の中へ入る。そこに入って聞こえたのは己を震わせる声。
そして、見えたのはこの世のモノとは思えない美形だった。彼の真っ黒な瞳に心を奪われる。
俺と同じ、真っ黒な。
魔王の殺気が漂う中で、俺が動く。
「綺麗、綺麗な瞳だ」
一歩だけ、踏み出してぽつりと。心の中で言うはずだったそれは、喉を通り、口から優しく吐き出された。人も、魔物もいない。勇者達と俺と魔王が存在している空間では、小さな言葉が反響して大きく聞こえた。
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