障子を開けると風が部屋に吹き入る。鼻孔をくすぐる春の匂い。
頬にぴと、っと花が触れる。そっと花弁を拾い上げ臭いを確かめる。
「桜か....」
僕は耳も聞こえないし、目も見えない。真っ暗な世界と無音な世界。触れる指先や肌と微かに香る匂いだけの世界が僕の全て。自分すら何を言っているのか聞こえない。唇に触れて漸く自分が話しているんだと実感できる。
この庭にはどんな桜が咲いているのだろう。枝垂れ桜か...?沢山の桜なのか、と想像を膨らます。後天性の物だからある程度うろ覚えだろうけども覚えている。
ふわっと新しい香りが舞う。
「.....天晴?」
うん、そうだよと握ってくれる手が暑い。
多分天晴のいる方向にむけられて、僕と接物を交わす。
熱と匂いだけが彼がいる証だった。息が絶え絶えで何言ってるかも分からない。愛してるの言葉も聞こえない。無音な世界はとても暗く不安だ。だけど、この熱で安心する。
天晴。
「愛してる」
彼からの愛してるが、聞けない。姿が見えない。苦しくて胸が締め付けられる。
微笑んで、愛してるって、。
みさせて、きかせて
――
欠落していても幸せなんだよという話が書きたかった。
付け足し。
書き直したらなんだ、シアワセじゃなくなった。むしろバットエンドだよ(´・ω・`)
×