完結篇ネタです。
Twitterでお世話になっている方の素敵な絵に感化されての妄想。
ハッピーエンドを目指しましたが、魘魅銀さんが死ぬのは避けられないので、死ネタ注意。
後半、輪廻転生した世界のお話もあるので、なんでも許せる方向け。



アモル・アイテルヌス=ラテン語で永遠の愛




俺は俺に殺された。
腹切りを試みても死ねなかったこの身体。
皮肉なことに過去の自分の手によって呆気なく終わりを迎えたのだ。
朧気な意識のなか、ひとの気配を感じた。ぼやけた視界に白い羽が舞う。
此処は天国か。
幾多の命を奪って、挙げ句の果てに世界を滅ぼしかけたので、てっきり地獄にいくと思っていたのだが。俺は天国にいけたのか。しかも天使のお迎えときやがった。最後の最後でなんて運のいい。
おっぱいのでかい美人な天使だと尚更、ラッキー。

「銀さん、」

懐かしい声がする。

「やっと見つけた」

懐かしい匂いに包まれる。

「……、」

どうしてここがと問いたいが声が出ない。
しかし千草は俺の言わんとすることが分かったようで、たまが教えてくれたのだと言って俺の頬を優しく撫でた。
五年ぶりに間近でみる千草は随分と大人びていた。
だけど、泣き虫なのは変わっちゃいない。
大きな瞳に涙をいっぱい溜めて、ほろほろと泣いていた。
ーー泣くなよ、相変わらず泣き虫だなぁ。
力を振り絞って、腕を持ち上げ指で涙を脱ぐってやる。
ーーお前にゃ、笑って欲しいんだよ。

「泣くなよ、泣き虫」

掠れた声で囁いて、目許に口付ける。
しょっぺぇ、なんて呟けば千草は鈴を転がしたようにころころと笑った。
あの頃はこっ恥ずかしくて言えやしなかったが、千草の笑った顔が好きだ。
何度その笑顔に救われたか。

「銀さんだって、泣いてるくせに」

言われて、自分の目から生暖かい水が流れ落ちていることに気付いた。

「……うるせ、」

額に口付け、唇にキスを送る。
記憶より細くなった背中に腕を回し、そっと柔く抱き締める。もう殆んど力を失っているが、千草の温もりを離したくはなかった。

あんなにも死を望んでいたのに、死ぬのが急に怖くなった。
死にたくない、生きたい。
でも、もう限界が近い。背中に回していた腕がぶらりと垂れ下がる。
ああ、死にたくねぇなぁ……。
細い肩にぐったり寄り掛かる。まるで幼子をあやすように頭を撫でる手が心地良い。
最後に言い残したいことがあった。
これだけは、これだけは言わないと。死んでも死にきれない。

「あいしている。誰よりもずっと千草を愛している。いつか生まれ変わったら、また俺を好きになって」
「……私も愛しているわ。ずっと傍にいるから。ずっと、銀さんを想っていますから。いつか……また、」

また会えるから、ね?
それまでゆっくり休んで。

遠退く意識のなかで、千草の優しい声を聞いた。






暗転。









こんな夢をみた。
荒廃した世界。
私はひとりさ迷い歩く。
ーこっちですよ、こちらにおります。どうか、あのひとをーー
優しい声がする。それが誰なのかはわからかいが、柔らかい、しかし何処か無機質な色を含んだ女性の声だった。
声に導かれ、向かった先。
ひとりの男のひとが蹲っていた。
××さん!
名を呼んで、弾けたように駆け出す。

そこで目が覚めた。
目が覚めて、自分が涙を流していることに気付いた。ひどく懐かしい夢をみた。……ような気がする。


父の転勤で、高校二年の春先に転校することになった。
編入手続きを終えた日曜日の午後。
春の柔らかな陽射しを浴びながら、桜並木を歩く。
もう春だなぁ。お花見したいなぁ。
のほほんとしながら、鼻唄を口ずさむ。
びゅう、と風が吹いた。突風だ。まさに春の嵐。

「うぎゃっ」

色気のない悲鳴をあげてスカートを押さえる。

「お、いーもの見えた」

背後からヒュウッと口笛が聞こえ、からかいの声が投げつけられた。声からするに男だ。多分、まだ若い。
くそ、ついてない。
舌打ちして、乱れた髪を整えながら声がした方に振り替える。文句のひとつでも言ってやろうと口を開いた矢先。
ぐん、と手を掴まれた。
驚いて短い悲鳴をあげる。

「ちょ、な、ななに!?離して、」
「やっと見つけた」

そう言って、まるで宝物を見つけたように顔を輝かせる男の子(多分、同年代ぐらいだろう)に私は目を奪われた。
ふわふわと風にそよいで柔らかく揺れる髪は見事なまでの銀色で。紅い瞳は先日美術館で見た宝石を思わせる。世の女の子達が羨むような白磁の肌。だけれど、しっかりとした筋肉に覆われていて、ひ弱さなんて感じられない。
凡そ日本人離れした容姿の男の子は頭ひとつ分ある身長差を埋めるように猫背になって、ぐっと顔を寄せて、私の顔を穴のあく程見つめていた。
綺麗。なんて思ってしまい、私は男の子から視線を反らせないでいた。

何処かで会ったことがあるような……気がする。
遠い遠い何処かで……。

「あ、悪ぃ」

私の表情に驚きの色を見て取ったのか、男の子は慌てたように手を離した。

「俺、坂田銀時ってんだ。××高校の二年。あんた転入生?」

ー坂田銀時……銀時、ぎんとき。

心の内で繰り返し呟く。
今時、古風な変な名前。でも不思議と懐かしい気持ちになった。

「……うん。××からきたの」

以前住んでいた地域を口にすると、坂田銀時くんとやらは銀髪を綿毛のように揺らして俯き、「ああ、どうりで……。探せなかったわけだ」ぽそりと呟いた。
どういう意味だろう。

「……あのぅ。どうかしたの、」

ひょいと顔をあげた坂田銀時くんが唇の端を曲げて微かに笑って見せるので、思わずドキリとした。
その顔があまりにも切なそうな色をしていたからだ。

「なんでもねぇよ。そんなら新学期から一緒の学校だな。……あ、やべっ。バイトに遅れる。……じゃあ、またな!」

そう言って坂田銀時くんは傍らに立て掛けてあった自転車に股がって、桜並木を颯爽と駆け抜けていった。

「……変なやつ」

だけど、悪いひとには見えなかった。

ーーいつか、また俺を好きになって。

何処かで声がする。でも何処からしているのか皆目検討もつかない。
きっと、空耳だろう。
春風と共に去っていった坂田銀時くんも、もしかしたら幻だったのかもしれない。
でも、また会いたい。
また会えたら、私の名前を教えてあげよう。



捕捉
輪廻転生した世界、DK銀時くんは前世の記憶があります。夢主ちゃんはなんとなく懐かしい気持ちになるとかその程度。
いつかシリーズで書きたいお話。




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