コロツケの唄(坂田誕 番外編)


*旧サイトに載せていたものです。
8年前のものですので、文章はあれ。




拝啓

先生、あの世では如何お過ごしでしょうか

俺は相変わらず元気です。

そうそう、先日(十月十日)は俺の誕生日でした。とは、云っても俺は自分の生まれた日を知らないので、貴方が

ーー誕生日…そうですねぇ…だったら今日が君の誕生日です。 去年、私と君が出会った日が十月十日なので…うん、ないすあいであじゃないですか!

と思い付きで決めたのを今でも良く覚えて居ます。

そんな俺の誕生日。
毎年恒例の野郎共からの贈り物ですが、此れがまた可笑しいのです。

桂からは、品の良い懐中時計を貰いました。
去年の誕生日には、変な形をした白いペンギンみたいな縫いぐるみを貰いましてね
(お嬢さんが、其れを見て可愛いと気に入りま してね……結局は、お嬢さんに差し上げましたが)
その影響もあってか、桂から懐中時計が貰えるなんて思いもしなかったので、俺が驚いていると。

―毎日毎日……遅刻などしおって。日頃、たるんでいるから、そのような死んだ魚のような目になるんだ。公爵家の書生らしくシャキッとしろ、シャキッと!良いか、懐中時計を貰ったからには時間にけじめをつけろ!

―煩ぇえ!お前は俺の母ちゃんかぁあ!

相変わらずの長々とした説教が始まったのでヤツの頭を叩いて強制的に黙らせました。勿論、懐中時計はしっかり貰いましたが。


高杉からは、マフラーを貰いました。
そのマフラーというものが何故か縄でしてね


―何これ、ねぇ馬鹿にしてんの?縄なんかで首が暖かくなるわけねーだろう

俺の文句を余所に、ヤツは三味線を取り出して、ベベンと弦を鳴らしながら唄い始めたのです!

―不景気に悩む貴方

失業中でお先真っ暗という貴方の為に

この世とおさばらするなら

直ぐに役立つ素敵なマフラー

縄目模様もくっきりと!

とても素敵な締め心地!

おさっき

おさっき

おさっきマフラー

―俺に死ねってかぁああ!? 酷くね?チービ、チビ!

―誰が、チビだ。今すぐ、それで首括って死ね

小さい頃、寝小便しては大泣きし、体調崩しては先生に甘えてばかりいた高杉が……。
今では、こんな最低なヤツに成長しました。全く……高杉の親父さんとお袋さんはどういう育て方をされたのでしょうね。高杉死ね!



坂本からは、四十八手の本を貰いました。



―てめっ、これ一体全体誰に使えってぇんだ!遊郭なんかで使えるのかよ、こんな技!

―なーにを云っちょるが。おまんにやァ、あんお嬢さんばいるじゃろうが!

もう、この馬鹿の相手をするのも疲れました。先生、此の坂本辰馬という頭がすっからかんの馬鹿をどうにかして貰えませんか。





―坂田さん、どうぞ。私からの、贈り物です

そう云って白い包み紙を差し出したのは、お嬢さんでした。

―何ですか、この包み。

受け取っては、見たものの……それに包まれているモノが妙に柔らかく温かかったものでしたから、俺は不思議な表情をしてお嬢さんに問い掛けました。

―コロッケです…… 坂田さんが、甘い物のお次に大好きだと……新八君から聞き まして……ああ!すみません!やはり、誕生日の贈り物にコ ロッケは可笑しいですよね!

―いえ、そんな滅相もない。俺は、コロッケ好きなので嬉しいです。

コロッケの匂いが鼻を擽りました。匂み紙を開けると、コロッケの形はいびつで所々、焦げていました。
店で売られているコロッケには、到底見えませんでした。

―へ変な形でしょう……それ、わ私の手作りなんです……

―お嬢さんの?

―田中さんに教えて頂きながら作りました……。

田中さんとは、専属料理人の親父の事です。
彼の作る料理は天下一品なのです!

―料理なんてしたこともないので……いびつな形ですし、焦げてしまいましたが……やっ、やっぱり、こんなの差し上げることが出来ないわっ!ちゃんとしたコロッケ買ってきま す!なので、返して頂けますか?

―……嫌だ

―へ?

せっかく、料理なんてしたことのない不器用なお嬢さんが 俺の為に作って下さったコロッケなのに、口にしないまま 返すのは勿体ないと思いました。俺は、コロッケを一つ手に取ると、大口を開けて焦げたコ ロッケにかぶりついたのです。

お嬢さんが作ったコロッケは、少し焦げた味もしましたが、何時も食べているコロッケの味そのものでした。

―美味しいですよ、このコロッケ

―ほ本当ですか!?


俺の言葉を聞いた途端、 お嬢さんの表情がパッと明かりくなったのです。
つい先程まで、しょんぼりうなだれていたお嬢さんの、切り替わり様の速さが可笑しくて、ついつい笑ってしまいま した。

―ええ。ありがとうございます

コロッケという何とも珍妙な贈り物でしたが、嬉しい気持ちになったのは……やはり、お嬢さんの気持ちが篭った手作りのコロッケだったからなのでしょうね。

お嬢さんは、とてもとても嬉しそうに笑って

―お誕生日、おめでとうございます。坂田さん……貴方が生まれて来た事に感謝致します。

穏やかな口調で、そう云ったのです。

その時、顔中に熱が集まった俺の情けない表情といったら。
此の場に高杉達が居たらきっと盛大に爆笑されたはずです。
咄嗟に、赤くなった顔を隠そうと俯いた俺に気づく事なく、お嬢さんは、

―ワイフ貰つて、嬉しかつたが

何時も出てくる副食物はコロツケ

今日もコロツケ 明日もコロツケ

これじや年がら年中コロツケ

アハハハ アハハハ こりゃ可笑し

とコロッケの唄を口ずさみながら、何処かへ去って行きま した。

どんなに揶揄された贈り物だろうが、仲間が俺の誕生日を 祝ってくれるのは嬉しい事です。

貴方には恥ずかしくて面と向かって云えませんでしたが、ずっとずっと前から今も変わらず、貴方が勝手に決めた誕生日が、俺にとっては貴方からの最高の贈り物なのです。

松陽先生……貴方に出会えて本当に良かった。







・おさっきマフラーは、はいからさんが通るから引用。
・コロッケの歌、大正9年に流行。


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