七.万事屋

作中の医療行為は全てにわか知識なので悪しからず。


万事屋に舞い込む仕事内容は色々ある。
猫探しから、不倫調査、屋根の修理、年老いた老夫婦が住む家の庭の手入れなどなど。その中には危険な仕事も含まれている。
銀時の腕っぷしの強さを聞き付けた者が、ストーカーの撃退であったり護衛であったりと依頼してくるのだ。もっともそれらの依頼は宇宙最強の夜兎である神楽や、銀時や神楽に紛れて目立たないもそこいらの少年より腕の立つ新八も易々とこなしていた。
そして、血生臭い依頼も時々舞い込むことがある。流石に子供達を巻き込むことはできず、銀時は子供達には内緒で密かに依頼を受けていた。


ーーやっぱ、あいつら連れてこなくて正解だったぜ。

銀時は追っ手を撒きながら思った。偶々、神楽と新八が留守の時に舞い込んできた護衛の依頼。報酬も弾むと聞いて、銀時は直ぐ様引き受けたが、これが厄介な方向へと進んでいったのだ。
依頼主である男ーー小柄な地味な男だーーは元攘夷浪士だった。
男は攘夷戦争中に銀時の鬼神の如き戦いっぷりに心を奪われて以来、白夜叉に焦がれ、ずっと崇拝し続けていた。
護衛の依頼と理由を付けて、銀時を誘い出し『白夜叉復活』など馬鹿げた論を恍惚とした表情で語る。所謂、頭のネジがぶっ飛び過ぎたヤバイ人間。あまりにも馬鹿馬鹿しく、これならまだヅラの方がマシだと幼馴染みで現役攘夷志士の長髪の男を思い浮かべながら、銀時は隙をみて逃げ出した。

直ぐに追っ手がくるのも想定内。追っ手の中には現役の攘夷浪士も含まれていたが、銀時の剣の腕を持ってしては雑魚だった。
片手一本でも勝ててしまう。
が、薬を盛られていたのは誤算であった。
恐らく軽く意識を失う程度の薬だろう。木刀を握る指先が痺れ、うまく力が入らない。
出された酒を迂闊に飲んでしまった数分前の自分を殴ってやりたい。
なんとか意識を保ち、沸いて出てきた追っ手を木刀で薙ぎ倒す。
不意をつかれて斬られた腹からとめどなく流れる血を片手で押さえながら、銀時は最後にひとり残った主犯である男の前に立った。

「す、凄い。薬を盛られても腹を斬られても、まだ立っていられるなんて。流石、白夜叉!ひひ」
「……気色悪ぃ顔してんじゃねぇよ。鳥肌立ったじゃねぇか」

いつものようにだらりとした声で言ったが、正直立っているのもやっとだった。
目の前の細い男に勝てるかさえも怪しい。
が、男は持っていた銃を捨て「白夜叉に斬られるなら、本望だ」と下卑た笑いを浮かべながら言った。
狂ってやがる。反吐がでらぁ。
銀時の中で昂っていた闘争心がすっと冷めていく。
攘夷時代から銀時を武神として崇めるような輩は多かった。あまりいい気はしなかったが、それで士気が高まるならと放っておいた。
だが、目の前の男の考えは反吐が出るほど気持ちが悪い。

ーー俺の刀はこういう奴の為にあるんじゃない。

銀時はゆっくりと男に近づく。

「殺しはしねぇよ。ちょっと気ぃ失うぐれぇだ。目が覚めた時には豚箱行きか、真選組の鬼の副長さんのきっつーい拷問が待ってるだろうよ」

恍惚とした表情を浮かべていた男の顔が絶望に変わるのと同時に、銀時は男の腹に木刀を打ち込んだ。男は軽く吹っ飛んで壁にぶち当たり、それから泡を吹いて気を失った。

「……あー……畜生。やべ。さっきのでまた傷が広がっちまった。やべぇよ、これ」

銀時は男に目もくれず、重い足を引き摺りながらぼやいた。

「まぁ、でも。千草ちゃんに、会えるし……じーさんには怒鳴られるだろうけど」

最早、痛みを感じなくなってしまった。これは本格的にやばい。此処からかぶき町まで歩いてどれぐらい掛かるだろうか。そう言えば、二日も家を空けたから神楽や新八が怒っているに違いない。言い訳を考えるの面倒だ。
くだらない事を考えていないと意識が飛んでしまいそうで、朦朧とする意識のなか万事屋の子供達への言い訳を考えながら、銀時は必死に足を動かした。






夜、千草は布団を敷いて寝る準備をしていた。松本夫妻は幕府の官僚の娘の結婚式に出席する為、宇宙にいる。今夜は留守番を頼まれた千草ひとりだ。
近頃、空き巣が多発しているから用心しなさいと富が言っていたのを思いだし、千草は戸締まりを確認しようと診療所へ向う。

ごとり。

突然、戸口から響く音に千草は飛び上がりそうになった。

「だ、誰かいるんですか?」

思わず声を出して問いかけるが、返事はない。
戸口を少し開け、そこから顔を覗かせる。しかし、誰の姿も見えない。
猫か風の悪戯か。千草は息を吐いて肩の力を抜いた。

秋の風に混じって匂う、鉄の臭い。
血の臭いだ。
千草は、はっとして慌てて表へ出る。
地面には血だろうか。黒い染みを作って、診療所の裏まで点々と続いていた。

ーー誰か、いるのかしら。

怪我人ならば大変だ。
松本からは急患が来たら、先ずは救急車を呼んで病院へ連れて行けと言われている。
血の跡を辿った先に、腹を押さえて壁に寄りかかっている銀時の姿があった。

「……銀さん!?」

慌てて銀時に駆け寄ると、銀時はゆっくりと顔を上げた。白い顔は血の気が窺えない。

「……千草ちゃん?……てこたぁ、ここはかぶき町?」
「ええ。どうしたんです、こんな酷い怪我……!」
「……ちょっと、ドジっちまった。悪ィけど松本せんせ呼んでくれる?」
「良玄先生は今いないんです。まって、今救急車を呼びますから」

千草が立ち上がろうとすると、銀時に手首を掴まれた。

「……待て。呼ばなくて、いい。……あいつらに、知られちまう」
「そんな事言っている場合ですかっ」
「頼む、心配かけたくねぇんだ……じーさんいねぇんだったら……千草がして」

千草は躊躇った。向こうの世界の医師免許は持っていることは確かだ。だが、研修医止まりで、更には病理専門で働いていた為、外科的な処置の経験は浅い。松本から手解きを受けているとはいえ縫合をひとりで行うには自信がなかった。

「ちょっと、血を流し過ぎたぐれぇだから。傷はそんなに深くねぇ。嫌なら、包帯巻くだけでもいいから、さ。頼む」
「わ、分かりました……銀さん、立てますか?」

千草は銀時の肩に手を回した。自分の足で歩けるとはいえ殆ど意識の薄れかけた、怪我をした男を支えながら歩くのはかなりの重労働だ。銀時を診療所のなかへと運び込み、布団へ寝かせる。必要な道具を急いで調達し、銀時のいる部屋へ戻った時には汗だくであった。

銀時は傷は浅いと言ったが、着物を剥いでみると切創は思いの外深い。

「銀さん、やっぱり大きな病院に」
「……いいって。面倒だったら、そこら辺に転がしておけよ」

千草は小さく息を吐いて、わかりましたと頷いた。曲がりなりにも医者なのだ。患者の頼みを聞くのも医者の勤め。

「私が出来ることは応急処置までです。明日の昼頃には良玄先生が帰ってくるので、それまで辛抱して下さいね。絶対に、助けてみせますから」
「……へ、へ。頼もしい、ねぇ……千草せんせー……」

銀時はへらりと笑ったが、口端を持ち上げるのも精一杯なようで直ぐに苦悶の表情を浮かべた。
少し染みますよ、と声を掛けて銀時の傷口に浄水をかける。
銀時が低く呻いた。
傷口を洗い流した後、綿を押し当て腹部に包帯を巻き付ける。
少しでも楽になるようにと、千草は銀時に鎮痛剤を打った。
鎮痛剤の副作用もあってか、銀時はとろとろとした眠気を漂わせ、やがて眠りに落ちる。
微かな寝息を立て始めた銀時を目にした途端、どっと疲れが沸いてきた。
此で一先ずは安心だが、気を抜いてはいけない。

「頑張れ、銀さんと私!」

自分自身を励ますように両手で頬を叩いて気を引き締めた。
丑三つ時を回った頃、銀時は熱を出した。傷が熱を持ち始めたが為の熱だ。
悪い夢を見ているのか、銀時は酷く魘されていて苦しそうに呻く。

「銀さん、」

声を掛け銀時の額に濡れタオルを置こうと柔らかな前髪に触れた時。強い力で手首を掴まれ、視界が反転する。一瞬の出来事だった。
気がつけば布団の上に押し倒されて、馬乗りになった銀時に身体を押さえつけられていた。

銀髪の前髪の隙間から僅かに覗く赤い瞳。
冬の満月のように冷たく、抜き身の刃のようにぎらついていた。
あの時、土方に向けられた瞳を思い出す。しかし、それよりももっと深い、闇。
あれは人を斬ったことのある目だと、誰かが言っていたような気がした。
視線を下方に向ければ、先ほど巻いたばかりの包帯に赤い染みが拡がり出す。
大きく動いたせいで、傷口が開いたのだろう。
不味い、と千草は思った。
早く手当てをしなければ。また血を失って、今度こそ出血死してしまう。

「……銀さん、私です。大丈夫です」

何が大丈夫なのか自分でも分からなかったが、銀時を宥めるように穏やかな、しかし、はっきりとした声で言う。
千草には目の前の男が何かに怯えているようにも見えたからだ。

「ここには私しかいませんから、だから、安心して下さい」

千草は手を伸ばして銀時の頬に触れる。銀時の肩がぴくりと跳ね、紅い瞳が微かに揺らいだ。

「……千草……?……悪、い。厭な夢を見ちまって……っ……」

銀時は低く呻いて千草の上に覆い被さるように蹲った。

「傷が開いてしまったみたいです。……いま、処置しますから……銀さん、少し動かしますよ」

ぐったりとする銀時を、傷に響かないように動かすのも一苦労であった。息を切らしながら銀時の下から抜け出し、着物の袖で汗を拭う。それから、急いで真新しい包帯を用意しようと立ち上がろうとした時。

「……行くなよ」

銀時の腕が伸びて来て、千草の着物の袖を弱々しい力で掴み引き止められる。

「……何処にも行かないでくれ。ここにいて」

銀時のすがるような目に、千草は胸がきゅうっと締め付けられた。弱々しく甘えてくる銀時を初めてみたからか。銀さんってこんな顔もするんだと思った。普段、飄々として何を考えているかも分からないような死んだ目をしているくせに、今はまるで捨てられた仔犬だ。

「大丈夫ですよ。私はここにいますから。包帯を取ってくるだけです。また、直ぐに戻ってきますから」

千草の言葉に銀時は「ん」と頷いて、着物からするりと手を離した。

ーー銀さんってば、可愛いの。

人は熱を出すと、弱ってしまうのか。
目許を朱に染まて、熱っぽい息を吐く銀時の姿が妙に色っぽく、千草は自分の胸がむず痒くなるのを感じた。






黎明を告げる鳥の囀りで銀時は目を覚ました。
見慣れない天井が視界に入る。血の臭いに混じって鈴蘭の匂いがした。
此処は何処だ。視線を横にずらすと傍らで横になり寝息を立てる千草がいた。

「は?」

銀時は目を見開いた。なにか過ちを犯して遂に手を出してしまったのかとそんな考えが頭を過った。
ゆっくりと身を起こそうとすると、腹部に鈍痛が走り、また布団に身を沈める嵌めになった。

ーーそっか、俺ぁ昨日、ヘマしちまって……。良かった、何もなくて。いや、まぁ手ぇ出してぇけど、まだ時期じゃねぇし。

昨夜よりは大分身体が軽いせいか、くだらないことを考えれるようになった。
首を動かして、涎を滴ながら眠る千草を見る。

ー阿呆みたいな顔してらぁ

久しぶりに厭な夢をみた。攘夷戦争中の護れなかった仲間と、護りたかった師の首を跳ねた夢。
灰の暗い夢にずぶずぶと浸かって抜け出せなくなってしまいそうだった。そんな時、遠くから聞こえた女の声。きっとあれは千草の声だろう。うつし世へ引き戻された時の安心感。
この女を離したくないと、うすらぼんやりする意識の中で思った、ような気がする。

腕を少し動かして、千草の髪に触れ弄ぶ。それでも起きない。

「相変わらず、無防備な女。俺が怪我してなきゃ、わるーいオニに襲われてるぜ」

桜色の唇を指でなぞる。それでも、起きない。
起きるどころか、千草は艶めいた息を吐いた。小さく開いた口から赤く熟れた舌が見える。思わず生唾を飲み込んだ。
銀時の悪戯心に火が点く。
千草の咥内に指を捩じ込んだ。柔らかく熱い舌に指先で触れる。

ーー指フェラっていうやつ?やべー。指じゃなくて銀さんの銀さんをしゃぶらせてぇ………。

下衆なことを考えた途端、下半身が熱くなってくるのを感じて、慌てて千草の咥内から指を抜いた。流石に怪我をして直ぐのセックスは不味い。
静まれ、俺の息子よ!と心の中で念じる。
このまま千草の寝顔をみていたら、欲情してしまいそうなので、強めに頬をつねってやる。

「いたっ」

これは流石に効いたらしい。千草は頬を擦りながら目を覚ました。

「あれ、私寝てた……。あ……!銀さん。良かった、目が覚めたんですね。お早うございます」
「はよ。お陰様でっ……て、いやいや、まずこの状況に慌てろよ。朝チュンとか同衾なう!みたいな状況を!なに呑気にしてんの?」

銀時の言葉に千草はくすくすと笑った。

「そーいう阿呆な台詞が言えるぐらいなら、安心ですね」
「阿呆って、酷くね?千草ちゃん、毒を吐くようなこだったけ」
「事実を言ったまでです。さて、私は朝ごはんを作りますね」

上体を起こして伸びをする千草の膝にずりずりと身体を寄せ、膝の上に頭を乗せた。

「ど、どうしたんですか、急に」

声が少し上擦っている。ちらりと千草の顔を盗み見れば、畳の痕がついた頬が朱に染まっていた。
ああ、この顔だ。この羞恥に顔を染める表情がたまらなくそそられる。
再び妙な熱が身体の奥底から沸き起こったが、怪我をしていては下手なことは出来ないと何とか抑えた。

「いいだろ。別に。怪我人を介抱するのも助手の勤めでしょ」
「……同じことをして、同じことを言う……」

千草の呟きに銀時は眉間に皺を寄せる。自分以外の誰かに膝を貸したのかと勘ぐり、嫌な気分になった。相手は大方想像がついているので、敢えて誰とは聞かなかったが。

「千草ちゃんさ、純朴そうな顔して意外と小悪魔だよな」
「はい?……そんなこと初めて言われましたよ」

ころりと首を傾ける千草を不覚にも、可愛いと思った。心臓が跳ねる。あの夏祭りの夜、千草の笑った顔を見て以来、調子が狂ってしまう。

ーーおいおい、俺幾つだよ。もういい歳こいた、おっさんだよ?

自分にツッコミをいれて、赤くなった顔を隠すように千草の細腰に腕を回して、膝に顔を埋めた。
どさくさ紛れて尻を撫でたら、頭上から軽く小突かれた。
血と薬品と、鈴蘭が混じりあった不思議な匂いが鼻腔に流れる。頭を撫でる千草の手が心地よく、銀時はうつらうつらと微睡んでいた。

とん、とん、とん。

診療所の戸口を遠慮がちに叩く音が聞こえる。

「こんな朝早くに誰だろう」
「……出なくていい。きっと、あいつらだ。眼鏡の気配がすんだよ」
「何ですか。眼鏡の気配って。眼鏡に気配なんてあるんですか。もしかしたら、急患かもしれないので、私ちょっと出てきますね」

千草の言葉に、銀時は渋々と膝の上から頭を退かす。

「おい、もしあいつらだったら、俺はいないって言えよ」
「………はいはい」

立ち上がって部屋を出る千草に、念を押すように言った。






千草が診療所に足を向けると、出入り口の磨りガラスには三つの影。

ーーやっぱりね。

息を吐くて戸を引くと、案の定、神楽と新八と定春が佇んでいた。神楽と新八に至ってはひどく不安げな顔をしていて、千草の姿を見るなり

「千草!銀ちゃん、いるアルか!?」

焦ったように神楽が詰め寄った。

「神楽ちゃん、いきなり言われても千草さん混乱するよ。ちゃんと事情を話さないと」

穏やかな口調で神楽を制する新八。しかし、不安を張り付けたまま、千草をみる。

「あの、朝早くにすいません。銀さん、二日前から帰っていなくて。あのひと、飲み歩いて帰らないことが多いから大丈夫だとは思うんですけど。たまに、厄介事に首突っ込んで大怪我して病院送りなこともあるから、少し心配で……」

きゅ、と袴を握る新八の手は微かに震えていた。

こんな年端もいかない子供たちに心配をかけるなんて、銀さんのやつ。本当にダメな大人だ。
銀時には止められていたが、千草はやはりどうしても隠しておくことが出来なかった。そもそも、あの怪我では松本の腕を持ってしても一週間は安静状態だ。何れは子供達にバレてしまう。

「銀さんなら、うちにいるよ。昨夜、怪我をしてうちに来たの」

千草の言葉に神楽と新八の顔が更に青ざめた。千草は慌てて

「もう大丈夫だから、心配しないで。さっき、意識が戻って阿呆なことを言っていたから」

と付け加えた。

「一応、応急処置は済ませて血は止まっているけど、あんまり怒らないであげてね。この後、きっと良玄先生からこっぴどく説教されるはずだから」

新八と神楽を連れてー診療所という衛生面で定春は外で待機だー銀時がいる部屋に戻る。二人の姿を目にした途端、銀時が不味そうな表情を浮かべた。

「げ。お前ら!千草ちゃん、内緒にしてってあれほど……」
「銀ちゃん!」
「銀さん!」
「ぐぇっ」

言い終わらない内に、子供たちからタックルされるように抱きつかれて銀時は悶絶した。

「いっ……てぇぇ……!おま、ら……ちょ……おれ、怪我人なんだけどっ」
「煩い!天パ!変態エロ親父!」
「銀ちゃんの馬鹿!天パ!足臭いマダオ!」
「それ、もう殆ど悪口じゃねぇか!」
「僕らがどんだけ心配したと思ってるんだよ」
「そうネ!銀ちゃん、二日も家あけて……!全く、こんなふしだらな子に育てた覚はないヨ……うぇえっ」

最初に泣き出したのは神楽だった。

「か、神楽ちゃん、泣いちゃダメだよ。千草さん、吃驚するでしょっ……ぐすっ」

神楽を制する新八も、堪らなくなったのかぐずぐずと涙を流す。
銀時はそんな子供たちを両手に抱え、吃驚したように目を見開いてオロオロとしていた。

「お、おい。何も泣くこたぁねぇだろ。お前ら小さいガキでもねぇんだし」

泣きじゃくる子供二人をどう扱っていいか分からず、銀時は狼狽える。助けを求める視線を向けられたが、千草は首を振った。
自分が介入するのは野暮だと思う。
彼らは強い絆で結ばれている。第三者が易々と踏み込んではいけない関係。

「はぁぁ。悪かったて。銀さんが悪かった!もう無茶はしねぇ。だから、泣き止めよ。恥ずかしい」
「約束破ったら、銀さんが大切に食べている高級チョコレート全部食べますからね!」
「げ、お前知ってたの!?」
「……あれ、全部食べちゃったアル」
「おいいい!神楽ちゃーん!?何してくれちゃってんのぉぉ!?」

神楽に向かって文句を言いながらも、銀時の瞳は慈愛に溢れていた。それは子供たちにしか向けられないもの。


千草の父親は仕事が忙しく、家にいないことが多かった。母親は幼いころに亡くなり、一回り上の兄も父親が院長を勤める病院を継ぐため、勉学に励む毎日で構ってもらえなかった。小さい頃からひとりでいることが多かった。友達はいるが、心の底から親友と呼べる者はいない。
だから、千草は万事屋の三人と一匹のような、家族以上の深い絆で結ばれている関係性が、少しだけ羨ましかった。そして、銀時を慕う神楽と新八、二人を心底大切に思う銀時が微笑ましい。

千草はそっと場を離れた。自分が出来ることは三人と一匹に朝食を出してあげることだ。

朝食のメニューは温かい味噌汁と甘い玉子焼き。





万事屋の三人と一匹が尊過ぎて、パチグラに甘い銀さん、銀さん大好きなパチグラが書きたかった話


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