だれかふたり

リクエスト:
初音ミク「恋するミュータント」をテーマにバロディしてみました。








夢を見た。
化け物が出てくる夢だ。
らかに化物という名に相応しい生物が、ぼんやりとした空間の中で一匹、佇んでいた。形は人間に近いなのに、よく見ると目の数がおかしくて、手足の数は昆虫で、血が凝固したような色の尻尾が、足の間からだらりとして垂れていた。いどき映画の中でも見れないような陳腐な、化け物らしい化け物だ。なんでこんなものがここにいるんだろうなと思いながらも、夢の中に論理はないので仕方ないかともしぶしぶ納得する。夢の中なので安全無害な位置から俯瞰もあおりも思いのままに、その化け物を観察できる。肌の色は緑がかかった、青。それも、空や海のようなそれではなく、絵筆を洗った水差に渦巻くようなどんよりと澱んだ青だ。汚い、下水溝でも見れるような色。人間の持つ色ではない。その質感も離れたところから見も、人の皮膚というより、胴や鉄といった金属に近い、硬そうな印象。ナイフか何かで一回や二回刺しても死なないだろう。しぶとそうだ。全体的に醜い。中途半端に人の姿をしているから、なさら。
あれ、だが何故かどこかで見たことがあるような、とそんな化け物を見ながら思っていると、これが、心の中の――そんなセロファンを何十にも重ねたようなぼんやりとした、音ともつかない声が、空間に反響する前に消えた。は?なんだって? 語尾が聞こえねえんだよ、ていうか、誰だよお前。自分という意識と突然出現した見たこともないような、ただ眺めるただけの化け物がいるだけの夢だと思っていたの、化け物と二人きりじゃなかった安堵よりも、予想が裏切られた悔しさのほうが先立った。どこにいるんだとあたりを見渡し、化け物が立っているほかには何もない背景手抜きな真っ白な空間に目を凝らせど、限りなく白に近いクリーム色をした人影?のようなものしか見えなかった。誰かいる。けれど、誰かはわからない。
――あんたがこの化け物の飼い主か?
人影のようなものが浮かび上がっている方角へ、大声でたずねる。きっと化け物自身にも聞こえているが、構いやしない。
――飼い主なら責任とって、ちゃんと檻に入れておけよ!
化け物がちょっと悲しそうな顔をしたけれど、構いやしない。
――こんな化け物、どうせ何かを破壊するしか脳がないんだろう? 見ろよ、世界征服、大虐殺、そういうことをするに相応しいおっかない、人間になりそこなった容姿をしているじゃないか!
ますます化け物は悲しそうな顔をした。構うことなどない。化け物に人権などない。
――生きる意味なんか、無いんだろう!
最後に俺は、そう言った。

「そうか。でもな、これが、お前の心の中のお前だ。臨也」

先ほどにも聞こえた、しかしセロファンを通過しないで再び聞こえたのは幼子のような青年の声、だった。
突然なにもかもがクリアになった。
歓喜に震えているようにも、冷徹に徹しているようにも、聞こえる。いまやその声の主、はっきりとその姿が見えた。

「なんだ、人のことどうこう言えないだろう。お前も、化け物なのか」

夢の中でシズちゃんがそう言って、俺を見て、くしゃりと笑った。
さっきまで俯瞰していた化け物と視界がリンクしていた。さっきまでの一傍観者という存在の宙ぶらりんさはなりを潜め、立っている感覚、息をしている感覚、それらが感触として脳に伝わってくる。ああ。だから化け物の様子以外、なにもかもがぼんやりだったのか。納得。なるほど、確かにこれは俺だ。
さっきまでの自分の言葉が、耳の奥で鳴って、悲しくて悲しくて堪らなかった。俺はこういう悲しさをいつも、誰かに言っていたのか。
さっきまで他人事のように見ていたのは、なんということだ、俺だ。見覚えがあるに決まっていた。俺なのだから。俺の意のままに動かすことが出来る。
俺は化け物だった。
その目から見た平和島静雄の手には、注射器が握られている。そうか、俺は彼が夢の中で作った化け物なのだ。彼が目覚める前に消えるのは、彼に消されるのは、いかにも常道だ。彼の夢の中の俺は彼のものだから、彼が望むままに、そうだな、消えよう。

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