なんかふたり

風呂場電球切れたぜ、とビールを飲みながら声をかける。
突然ちょうどシャンプー中のことだった。ぶつりと前触れもなく消えたのだった。
えっじゃあそのあと暗い中でどうたのシズちゃんとソファで年明けスペシャルドラマを鑑賞していた臨也が、素っ頓狂な声を上げて振り向いた。そんなの、真っ暗な浴室で湯を浴びたに決まっている。閉所恐怖症と暗所恐怖症ではないからこその感想だろうが、普段からできそうでしないという、中々にいい体験だった。最近静雄はポジティブなのである。
無言で臨也が、自分の空いた左隣を手のひらでぽんぽんと叩いてきたので、まだ濡れた髪のままそこに座る。肩にかけたタオルにぽたぽたとしずくが垂れている。ソファ濡らさないでと険のあることをいう割には、臨也の目は優しい。
平和島静雄と折原臨也。自他ともに認める天敵と、つまり同棲しているのだが、どうしてこうなったのだろうか、と考えると、どう振り返っても転機はたった一言であった。

シズちゃん、弟君に手ぇ出されたくなけりゃ俺と暮らして。

今思い出しても最低な申し出だったのだが、今思い出しても最悪な申し入れだったのだが、あ、そこまで最低最悪だったのかこいつはとわかるといっそすがすがしいものがあり、怒りも沸いてこなかった。落ちるところまで落ちている人間を救ってやろうなんて考えも浮かばない静雄は弟を人質に取られている以上、どうしようもないことだなと計算し、あっさりいいぞと答えた。殴りもせずに即答したのは流石の臨也にとっても予想外だったようで、だからそのようにして鼻を明かせてやったことは、今思い出しても最高である。
なんにせよそれを契機として、事情を知った池袋住民をぎょっとさせる二人の同棲が始まったのだが、何しそれまでの印象が最低だったもので一緒に暮らすようになってそれまで知らなかった癖まで明るみになったところで今更失望するようなこともないのだ。意外に思われるだろうが皿やフォークが毎夜空を舞うなんてこともなく、至って普通に温和に、今までの険悪さは一体なんだったのだろうかと当事者たち本人でさえ思うようにつつましく、日々を送っている。明日電球買いに行こうか、なんて自然とどちらともなく口にするくらいには。
勿論静雄は弟という何にもかえがたい存在を人質に取られたうえに、人殺しになりたくない心理を巧みに脅されていてのことだし、別にお互いへの印象が突如としてよい方向に変わったのかといえば全くそうではないのだ。きっといつかは崩壊する、うたかたの夢のような、ひとときの休戦にすぎないことは、よくわかっている。
それも。
桜みたい、と臨也がこちらを向いて言ったのを「見たい」と解釈して「まだ年が明けたばかりだぞ、」そう呆れた。臨也は静雄の両耳を所有物のようにびょーんと引っ張って、笑う。

「湯上りだからかな。桜みたいな頬だね、って言ったのさ」

桜見に行こうか、春になったら、と臨也は言う。いつ終わるのかわからない関係ではあるのだが、そうだろうな、きっと春もこうしているのだろうなと、なんとなく静雄は思いながら、ぬるくなったビールをすった。




ラブです
未祈拝。

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