海辺にふたり

生まれ変わって近くの浜辺に生まれちまったチカダテ



海の中だとらかに二割増しで生き生きする友人はさっきから素手で、シュノーケルもつずに沖の魚を取ろうと奮闘している。るで魚のほうから捕まえてくださいと言わんばかりに寄ってくるようで本当に取れてまうからたちが悪いのだが、それを俺は安全で比較的暖かい浜辺で眺める。冬の海だ。海水浴などと言うシーズンではなく、勿論俺たち以外に人影もない。なんであいつボディスーツも無しに泳げるんだと戦慄した気分はとっくに風化している。冬特有に白く垂れ込む空の下、そし耳元でひゅおひゅおおおと寒風吹き荒れる中、浜辺で座りこみ砂の城をこさえながら、ゆうに2時間は潜りっぱなしの友人を俺は待つ。ここからは見えないが奴唯一の装備品、手製の網は今頃大量だろう。おかげで城のクオリティはものすごいことになっている。夏に東北に旅行に行ったときに登ったどっかの城をイメージして、天守閣の瓦一つ一つにまでこだわり上げた出来栄えはただ崩すには惜しく、携帯電話のカメラ機能で角度を変え位置を変え何枚かデータとして収める。自己陶酔タイム。も、鼻水が垂れてきそうになって霧散する。
腹も立たない。住んでいる校区の関係上小学生時代から知り合い友人となった男は、その当時から既に海が好きだった。休みになると電車を乗り継いでよく海に連れて行かれた。体力がつくと行動手段は自転車になり、そしてバイクになった。行き先はいつも同じ、はるかなる大洋、大いなる海。季節を問うこともなく、友人はいつも俺を連れて行った。思えば高校受験の前日だろうと誘われた、さすがにそれは断ったけれど。
幼馴染と言ってもいいかもしれない友人が再び同じ制服を着て通う学校を決たのも海から近いからなのだから筋金入りである。
政宗! 今日は煮付けにしてくれ! とその友人に、海の中から大声名前を呼ばれる。
ここから見てもしっかり獲物が入っていることがわかる網を背負いながら、器用に泳ぎ俺の待つ浜辺へまっすぐ向かってくる。高校二年生。気楽な時期、娯楽なんかいくらでもある。だが俺は他のクラスメイトやらの誘いを断り、夏以外は泳ぐこともない海へ行く。
なんとなくそすべきな気がする。
なんとなく奴と海を眺めるべきな気がする。いつも。
なんとも不思議な話なのだが別に不快でないことが更に不思議である。シーズンでもなければどこを見渡しても目の保養になる水着の女性もいないし風は塩っ辛いし暇だし砂の城は崩れるし、待たせてめんと謝られるわけでもないし、でもそれにふけんなよ早く上がって来よ馬鹿と言いながらそれでもいい、付き合いたい、と思うこの気持ちがどこから沸いてくるのか、一桁の年齢だった頃からずっと不思議だ。
いやーいい波だったと銭湯にいるオッサンでも言わなさそうな親父臭漂う物言いをしながら、投げてやったバスタオルで体中の水分をぬぐう友人。何せこいつとの海デートは1000回などとっくに越えているのでタイミングも慣れたもの。毛も生えてない頃ならともかくもう普通に捕る歳なので水着から下着に着替える時は細心の注意を払わなくてはならないのだが、ふと友人は水着にかけた手を止めて俺を注視した。背をかがめ、俺の顔を覗き込むようにしげしげと。真冬の海で海パン一丁、しどけなく濡れている男から不意に沈黙され見下ろされるいわれなどない。
なんだよ、とその防水仕様の眼帯を見返しながら聞くと、どことなくしみじみした様子で「いや、お前ってほんと、律儀だよなあ」とか訳のわからないことを言ってくる。

「俺がビューティフルでハンサムな見かけによらずマメで細やかな性格をしてんのは、小十郎以外じゃ多分アンタが一番知ってるだろ」
「そうそう。まじで意外だけどな、義理堅いんだよな。大昔の戯言を本気にしてわざわざ生まれてくるし?」
「あ?」
「俺はお前が手の届く範囲にいて嬉しいぜ」
「なんだよ、それ。おい、早く着替えろ。なんでこの気温の中その格好で平気なんだ。見てるこっちが寒いだろうが」
「いやあ、どっか遠いところだってみ? 遠距離恋愛友情版ってなんっか、しょっぺーだろ?」
「しょっぺーのはお前の体だよ、どけ元親。俺まで濡れる」
「ありがとよ、政宗」

低くて深い突飛な礼の言葉に、その顔を改めて見上げると、真摯な表情を見るのと同時にそのまだ湿っている手で髪を乱暴にかき乱され、ますます意味がわからない。よーしその喧嘩買ったとバッと立ち上がれば、俺の額が友人の顎を強打。動けない隙に城の砂をその水分が垂れる体にガシガシかける。あっおまえ!と復活した友人も笑顔になって、着衣している俺の襟首を掴み服と背中の隙間に新鮮な小魚を投げ入れてくる。ぬるぬるした感触は堪らなく不愉快だったが、こんなことをずっと前からしていた気がる。
5年前、10年前、いや、そのずっとずっと、昔。



未祈拝

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