サンジュウニ
「大丈夫」
レオが頭と腕に負った怪我で、入院することになってから一夜が明けた。世間はクリスマスというイベントに浮き足立っている。そして、レオも。
大した怪我でもないと主張はしたのだが、決定したのはエンだ。
念のためだ、そう言って、レオを無理矢理に総合病院へと押し込んだ。
レイの部屋の隣に、わざわざ入れてもらったのは、……まさか偶然ではないだろう。
「何だよ」
「………職権乱用」
「失礼な。
此処の院長と俺が“たまたま”仲が良かっただけだ」
「……」
たまたま、という都合のいい言葉に、じと、と眼が据わった。
しかしエンは、何の事かと言うように肩を竦めて微笑む。
ずるいなと、病室のベットに素直に横たわっていたレオは、眉を寄せて顔を逸らした。
頭には包帯、右手にはギプスが嵌まっていて、正直邪魔臭い。…別に大した怪我でもないのだ。本当に。
───この、ペンダントのおかげだろう。と、自分の首にかかっている、小さな笛のペンダントを見下ろした。スカイブルーの、ペンダント。
「それ、役に立ったな」
約束通りになって、レオはふわふわと落ち着きがなく、それを見てエンがふ、と目元を緩ませて言って、こればかりはレオも頷く。
まるで、魔法でも使って、それが成功したような感覚。寒くて狭いあの夜、真っ暗な中、甲高く響き渡った音を思い出しながら。
「…………ん」
「あ?」
「………ごめ、ん」
「全くだ」
「…」
「言い付けを守らなかったから、そうなった。
因果応報って奴だ。覚えとけ」
「……………ん」
言い訳出来ずエンの言葉を俯いて聞く。自分が悪いのだ、と落ち込んでいるレオに、更に言い募ろうとしたエンだが口を閉ざした。
今日が何の日か思い出したのだ。
エンはため息を溢して、部屋にある時計を見る。まだ、午前の9時。一般的な面会時間は12時頃だから、その頃にユカリはやってくるだろう。
そして、夜にはパーティをしよう。許可はとっくに貰ってある。
「………」
楽しみだな、なんてエンらしくもない事を思いつつ、ベットで項垂れる少女の頭を撫でて、言った。
「大丈夫だ」
「……?」
「てめぇは、もう気にするな」
「でも、俺、」
「大丈夫」
「っ」
魔法の言葉のように、大丈夫、という言葉はレオの不安に揺れる心を落ち着かせた。
エンは、優しく微笑む。
「大丈夫だ。
……てめぇは気にせず、レイの傍に居ろ」
「…ん」
「夜にはパーティがあるんだ」
だから、それまでにはその暗い顔を直せ。
分かったか?
ぽんと、最後に頭を軽く叩くと。レオはぱぁ、と顔を輝かせ、ユカリさながらの明るい笑みを浮かべた。
「……おう!」
11歳の誕生日を迎えたレオは、浮き足立っていた。
大丈夫。そう言い残して、
「大学に用がある」と部屋を出ていった背中に、何となく、口に出来ない感情を抱きながら、
見送って。
大丈夫。
大丈夫。
大丈夫。
君が無事に聖なる一日を過ごせるように、願った、サンジュウニのお話。
大丈夫、
「───レオっ!!
エンは!? エンはどこだ!?」
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