夕暮れ追想曲 | ナノ
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ジュウロク

  
  

吐く息。誰ものが全て白く濁る。

「まっしろ!」
「ユカリ黙れ」

レオとエンが何時ものように、レイが入院している病院へと赴くと、病室に入るや否や、ユカリがそう叫んで出迎えた。
唐突の物言いに、エンが反射的にそう返す。

隣に居たレオがじと目で見るも、ユカリは構うこともなく、何を思ったのかベットで苦笑いしているレイを抱き上げると、部屋を出ていってしまった。
レオとエンも互いに顔を見ながら、仕方なくついていく。

ユカリがレイを抱えたままやって来たのは、レイの病室から少しばかり廊下を歩き、突き当たりにある庭のようなバルコニーだ。

そしてユカリが声高々に、また冒頭と同じ台詞を、そのバルコニーをバックにして叫んだ。
エンのローキックが決まった。抱っこされているレイに気を使って威力はない分、ユカリも元気だ。レオがげっそりとした。



つい先月、レオは九歳へと誕生日を迎え、年をこし、一月を迎えたこの町には雪が降り積もっていた。
一晩の内に町は真っ白になっていて、夕方になってもそれは溶けない。
それほどにまで寒い今日(こんにち)、ユカリは思ったのだ。

そうだ。雪だるまをつくろう。

「阿呆か」

何処の小学生かとエンの突っ込み。
しかしユカリは本気だしそわそわしてる。彼は二十歳の筈なのだが。
対して、まだ小学生であるレオは冷静な眼差し………というよりは、冷たい眼差しだ。
寒がり故にいつもより目付きが悪いし、何よりも、

「………レイが、風邪ひく」

そこが何よりの心配だ。
いや、そもそもレイは病人だ。こんな寒空の下に晒している訳にはいかない。病室から出すのも本来ならまずい気がするのだが。

「心配するコトなかれ!
寒さ対策なら万全だぜ!」

ユカリはばーんと指差した先、廊下には気が付けばふかふかの椅子と、毛布、ストーブが並んでいた。いつの間に用意したのか。
妙にそこだけ暖かい空間にレイを座らせると、どや顔をした。

「何、その無駄な備えの良さ」
「どやぁ!」

エンの飛び蹴りがユカリにヒットして、ユカリはそのまま足跡ひとつなかった白の世界に大の字で吹っ飛んだ。
ユカリの悲鳴を聞きつつ、レオはレイに寄る。

「………レイは大丈夫なの?
からだ、とか」
「うん、大丈夫!
最近ちょっとだけ、ちょうし、いいのよ」
「………ほんとう?」
「ほんとう!」
「……しんじゃわない?」
「しんじゃわないわ!」
「………」

「それより、ねぇレオ!
雪だるま、つくって!」

かわいい雪だるま!

そうせがんだレイはきらきらと輝いた笑顔でレオを見上げる。
レオは痩せたままで、不健康そうなレイを見詰め、おろおろと心配していた。彼女にもしものことがあったら困る。怖い。
すると、ユカリに雪の大玉をぶつけていたエンが、雪に埋もれている彼は放置でこちらにやってきた。

「レイ、誰か……医者か、に許可は貰ったのか」
「ユカリがせんせいに許可もらいにだっしゅしてたわ」
「………………もらったんだ…」
「うん、一時間以内なら、で、十分にあたためれば、いいって」

レオは、意外なことをすると思った。
ユカリはもっと考えなしに、レイを引っ張ってきたんだとレオは思っていた。

しかし実際は、そうでもないのかもしれない。
レイは、雪を、曇りのない眼で見詰めている。
復活したユカリが、雪まみれになっているのを見て、ふわふわ笑っている。
ユカリも、その笑みを見て、嬉しそうだ。

「………」
「……レオ、お前も行ってこい」
「………」
「大丈夫だ。
レイは俺が見てる」
「………、」

エンの台詞はレオを気づかっているものだが、むすっと唇が尖った。
レイを守るのは、俺なのに。
そんな勝手な独占欲───しかし、レイは気付いているのか、いないのか、無邪気に笑ってレオを見上げて言った。

「レオ! 大きな雪だるま!つくって!あと、うさぎちゃん!」
「……………つくったら、レイはうれしい?」
「うん! 今までちゃんと見たことないの!
だから、すごくうれしい!」
「…じゃあつくる」
「うん!」

単純かもしれないが、レオは彼女の微笑みを見る為ならば構わないと思って、ユカリの元へと走っていった。
ざっく、ざっく、ざっく、
広いバルコニーに踏み込み、迎えるユカリに雪を投げたりしつつ、ふたりで協力て雪玉をつくり、転がして、

エンは、レイを膝に乗せ毛布でくるんでやり、暖房の近くで待機。小まめにひ弱な彼女の体調を確認しながら共に見ていた。

「………レイ」
「はぁい?」
「………………楽しいか」
「うん!」


レオが楽しそうに、あたしの為に雪だるま、つくってくれてるから。


「…あんたは軽く小悪魔属性入ってるよな」
「こあくま??」
「………」

きょとんとするレイの頭を、気にするなと撫でてエンは「できた!」と雪だるまの体の部分を作り終え、わぁわぁと喜んでいるレオを見た。
レオと、レイ。
───何とも嫌な予感が、エンの胸に過るも、あまりにもふたりが幸せそうに笑い合うので。

「…」

まぁ、いいかと妥協してしまった、ジュウロクのとても寒い日のお話。




「エンちゃーん!
エンちゃんも雪合戦しよーぜー!」
「面倒臭いしユカリ埋まれ」
「面倒臭いで生き埋めされる俺!!」

「ユカリうるさいー」
「ふふっ、うるさぁい!」
「レオちゃんもレイちゃんもひでー!」
    
    

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