サンジュウハチ
中学生に上がっていても、レオは独りだった。
「ねぇ知ってる?」
「神々廻レオ」
「怖い」
「死神」「化け物」
「人殺し」
「知ってる?」
「エンってひと、いたじゃない」
「あのかっこいいひと」「やさしいひと」
「死んだのあの子の呪いなんだって」
「殺したんだって」
レオは、学ぶのは嫌いではない。
そう思えたのはとある人物が切っ掛けだったのだが、彼女はもう覚えていない。
忘れたふり、して。
知らないことを学ぶのは、面白いと思う。だからレオは、中学校を通っている。
毎日が楽しいと感じていた。
故に笑っていた。
例え毎日、化け物だと恐れられても。楽しいと思えて。
学校の終わりを告げるチャイムが鳴って、レオは鞄に教科書を入れながら視線を巡らせた。
レオの席は、クラス教室の窓側の一番後ろにある。
よく授業の間に窓の外を眺めるて、ちょっとぼーとしては慌てて黒板に視線を戻したものだ。誰に注意される訳もないけれど、けじめである。
その授業と同じように、レオは窓の外を眺めた。四回にあるこの教室から眺める、放課後の風景がレオは好きだった。
「……」
グラウンドでサッカーが飛び回る。野球ボールが転がる。陸上の選手が走る。
鞄に荷物をつめる作業を中断させて、レオはじぃとグラウンドを眺めていた。
否、焦点は合っていない。
どこも見ていない。
それは空が、紅く紅く、染まり、
夜に近付く夕暮れ時になるまで。
黒色のセーラー服が、紅く照らされるまで。続く。
誰もいない教室で。ひとりで。
どうせ家に帰っても誰もいない。
毎日のように通っていた病院も、ここ数ヵ月は訪れていない。
ただ、レイが自分を待っているんじゃないか。
それだけ理解しながらも、思いながらも、レオは真っ赤な夕日を、眺めていた、サンジュウハチの話。
「人殺し」
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