保護者あにき


オレは今、ある町に来ている。


「なまえーっ!!」

「はは、久しぶりキル」


何だかんだと予定が入って遅くなってしまったが、友達と旅に出た可愛い四男に会うためだ。近々会いに行くとメールしてから少し待たせてしまったことが申し訳ない。

遠目でもしっかりオレを見つけ、常人なら目視できない速さで胸に飛び込んできたキルアを抱き締める。
背が伸びたな。成長期ってすごい。


「遅れるなら連絡しろよな!オレずっと楽しみに待ってたんだぜ!」

「そうだね。ごめん」

「どうせなまえのことだから仕事でも入ったんだろ?仕方ないからウルトラジャンボパフェで許してやるよ!」

「うんうん、もちろん構わないよ」

「…………会いたかった」

「オレも」


家出の一件からキルアは変わった。
自分の気持ちに素直になったし、強くなったし、明るく子供らしくなった。
オレがそうさせたいと願ったように、キルアは変わった。後取り候補としてプレッシャーに飲み込まれそうだった子供はもういない。
それがとても嬉しい半面、キルアを変えられたのがオレじゃなかったことが悔しくもあるのだが。

こうして抱き締めて頭を撫でるだけで、実際に助けるようなことは何一つできなかった無力な自分に兄を名乗る資格はあるのだろうか。


「なまえさんこんにちは!」

「やぁゴン君。いつもキルアが世話になってるね」

「オレが世話してんの!」

「あは…どっちかって言うとそうかも…」

「いいんだよ。キルと仲良くしてくれる友達がいるのがオレは嬉しいんだからさ」

「えへへ」


とはいえ、あの閉鎖的な世界からキルアを連れ出してくれた彼…ゴン君には心から感謝している。
わざわざ家まで迎えに来てくれるほどの勇気と優しさを持ったこの子もオレは大好きだ。弟達とは違った素直さがあって可愛い。

猫のように擦り寄るキルアに続いて現れた少年に手を伸ばし、髪質の違う頭を撫でる。
照れたようにはにかむゴン君は本当に可愛い。天使のように可愛い。両手でキルアとゴン君を可愛がれるなんてここはエデンか。計り知れない無限大の癒しを感じる。やっぱエデンか。


「……幸せ…」

「うわ、久々に見たなまえの腑抜け顔」

「だってキルは可愛いしゴン君も可愛いから仕方ないだろ?はぁ…どっかの悪い奴等に誘拐されないか兄ちゃん心配で心配で」

「だったらなまえも来ればいいじゃん!! 行くとき何度も誘っただろ!」

「オレもなまえさんと旅したい…」

「いや行きたいのは山々なんだけどな?仕事あるしカル達はまだ小さいし、何よりオレが付いてくと確実にイルミも来るぞ」

「「…………」」


うん、黙るよね。
イルミも悪気があるわけじゃないんだが……こう、愛情表現がずれてるからなぁ。
ハンター試験で何やらかしたか知らないが二人に恐れられてる我が次男がちょっと哀れになる。合掌。

ま。もし二人に危害を加えるような馬鹿がいるならオレが直々に話し合い(物理)をして100回産まれてきたことを後悔させて苦痛の果てに細切れにして殺してやるけど。

残念そうにしょんぼりする二人をどう慰めたものか、周りを見渡してみたが子供受けしそうな店がない。
ううん…キルアも俺の弟だから物で釣れると思ったんだがなぁ。
あ、なんだっけ。デラックスパフェ?だっけ?


「ほ…ほらキル。デラックスパフェ食べにいこう?ゴン君も好きなもの注文していいからさ」

「……ウルトラジャンボパフェ」

「! そ、そうそうウルトラジャンボパフェ!」

「あとクレープも」

「いいよ!」

「チョコロボくん」

「喜んで!」

「……それから、今日は、ギリギリまで一緒にいて」

「えっ」

「………っ」


そんなことでいいの?
言われなくてもそのつもりでいたのに。
オレが家族以外を優先するわけないのに、まるで悪いことをしてしまったかのように恐る恐る聞いてくるキルアは一体何を遠慮してるんだろう?
昔はもっと我が儘だったんだけどな。旅に出て謙虚でも学んだのかな?

驚いて固まるオレを見上げる目は、怯えやら後悔やらでゆらゆら揺れていた。
全く、どこのどいつだ可愛い弟に余計なこと教えやがったのは…。


「オレ明日の昼まで一緒にいるつもりだったよ?キルはオレに会うのは今日だけでいいの?」

「……え、」

「それにオレへのおねだりは食べ物だけでいいわけ?前はもっとゲーム!とか遊んで!とか色々頼んできたのに」

「で、でも」

「それともオレはもうあまり必要ないかな?ゴン君いるし寂しくないもんな」

「違う!」


だよね。よかったー。
オレが弟離れできないのにキルアが兄離れしちゃったらどうしようかと。
兄貴にはもう迷惑かけないから!なんて言われた日には寂しすぎて死ぬ。

ひと安心したのでパフェのある店へ行こうと促せば少し戸惑ったように目を泳がせてから恐る恐る手を握ってきた。可愛い。
反対の手はゴン君と繋ぎ、まるで親子みたいだなと頭の片隅でそんな幸せなことを考えてみたり。
オレが小さい頃は親父と手を繋いだことなんてなかったなぁ。


「なまえさん」

「んー?」


周囲の微笑ましげな視線に笑みを返していると、ちょいちょいと腕が引かれて気の抜けた返事をする。
つんつん頭の少年は澄んだ瞳を真っ直ぐ此方に向けていて、うちでは見ることのないその純粋さにほんの少しだけ緊張した。


「オレも、なまえさんがキルアのお兄さんで嬉しいよ」

「…………うん?」

「キルアのことを大好きでいてくれるなまえさんがキルアのお兄さんで良かったなって。キルアいつもなまえさんの話してるんだもん」

「ごっ…ゴン!!」


真剣に、真っ直ぐに。

そんな事を言われるのは初めてで面食らう。
慌ててゴン君の頭を叩いたキルアは滅多に見ないほど顔が真っ赤で、それが照れからくるものなのは言うまでもなくて。


「キルアはなまえさんに嫌われないかずっと心配してたけど、それって絶対に考えすぎだよね?」

「……あぁ、」

「良かった!」


無邪気に笑う少年に、キルアの兄でいてくれてありがとうなんて言われて、


「お、オレも!なまえの、こと…その、」


どうしようもなく、どうしようもなく泣きそうになった。




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