お見合いあにき


(グロ注意!)



母さんがまた見合い相手を連れてきた。


「……母さん、何度も言うけどオレ」
「ダメよ!!ダメ!!なまえはもう結婚してもいい歳なんだから若い内に早く相手を決めておかないと!」

「でも」
「でもじゃありません!!ゾルディック家の長男として血を繋ぐ義務がなまえにはあるのよ!!」

「いや」
「相手の方は今日来る予定だから失礼のないようにするのよ!!着替えは用意したから早く支度しなさいな!」

「えぇぇ今日……?」


このやりとりも何度目だろうか。

何かと理由をつけて断ってきたがそろそろ母さんを止めるのも限界に近い。
投げるように渡された着替えや相手の写真を机に放り、早くもこの後を考えて疲れがどっと押し寄せた。

こんなギリギリに設定されたら逃げることすらできないじゃないか。十中八九それが狙いだろうけど。
仮病なんて病気にかかったことがないから使えっこないし、仕事も全部爺ちゃんや父さんが引き受けてしまった。部屋の外ではゴトー達が見張ってる気配がある。
となると会ってから丁重にお断りするしかないのだが、それも一時しのぎで次から次へと候補は連れてこられる。容姿や性格、家柄など断る理由を探すのに神経を磨り減らすのもいい加減こりごりだ。

いっそ受け入れてしまった方が早いかもしれない。
そうすれば2度と見合いなんかしなくていいし母さん達も満足する筈だ。仮面夫婦でいい。形式だけの関係で互いに自由にしてればオレも今までと変わらない生活ができるのだから。

もっと早くそうするべきだったな。
フォーマルなスーツに着替えながら写真を見れば、まぁまぁ顔の整った利発そうな娘が控えめに微笑んでいる。あまりベタベタしたがらないタイプだろう。ちょうどいい。


「兄貴」

「ん?」


ネクタイを締めて鏡を覗き込むと背後のドアが開いてイルミが顔を出すのが映って見えた。
普段のラフな格好とは違うオレに微かに目を見開いて、それから机の上の写真へ視線を移し納得したように頷く。

オレが結婚したら次のターゲットはお前だろうな。母さんに追い回されるイルミを想像して罪悪感に苦笑いした。


「珍しいね。兄貴が見合いから逃げないなんて」

「母さんが当日まで隠してたからな」

「あぁ…」

「イルミそこのジャケットとって」

「ん」

「いちいち見合いの度にスーツ新調しなくてもいいのにな」

「母さんの趣味みたいなもんだから仕方ないでしょ。兄貴だって断るだけなら着替えなくていいんじゃない?」

「いや、今日は一応受けるつもりだから正装しとこうかと」

「は?」


ジャケットを羽織り、申し訳程度に髪を整えて背筋を伸ばす。
これで多分相手方に失礼にはならないだろう。仮にも長男としてゾルディックの名に泥を塗るような真似はしたくないからな。

姿見で一通りチェックして振り返ると、脱ぎ捨てた私服を拾う体勢のままイルミがぽかんとオレを見上げていた。
無表情が常の次男の貴重すぎる驚き顔。こっちもビックリして思わず写メる。可愛いな、待受にしよう。


「……受けるの?」

「まぁ断り続けてもキリがないからな。そろそろ腹を括る」


あ、今の待受この前のゴン君とキルアか。
どうすっかなぁ…まだ設定してから1ヶ月も経ってないし……ミルキに頼んで現像してもらう?
携帯のフォルダもいっぱいになってきたし近々17冊目のアルバムを作るか。そういや爺ちゃんに貸し出した4冊目がまだ返ってきてないや。まだ時間あるしミルキのとこ行く前に寄ろう。


「で、お前はいつまで固まってんだ?」

「………………」

「イルミ?」

「……………………」

「イル?」

「………………」


お、動いた。

オレの私服を抱えたまま、いつもの無表情に戻ったイルミは無言で部屋を出ていってしまった。
なんだ?驚かせたことで拗ねてんのか?
未だに次男の行動が理解できない時があるのは兄として情けないな。

とりあえず今の優先順位はアルバムが先。
イルミは後でたっぷり可愛がってやろう。






…………と、思ってたんだが。

床一面を覆うような赤と、その中心に立つ弟にやってしまったと眉間を押さえた。

何も言わず、ただじっとオレを見つめるイルミは全身床と同じ色に染まっている。
その手にはいつもの鋲はない。爪の間にこびりつく肉からして、恐らく素手でやったんだろう。

足元には、肉塊になるまで無惨に引きちぎられた死体が転がっていた。
血まみれの黒く長い毛髪には見覚えがある。


「……イル、殺しちゃったのか」

「うん」


返り血を浴びることなんて滅多にない、執拗に傷付けるなんて滅多にない弟のまるで八つ当たりのような惨殺。

その悪意に気付かないほどオレは鈍感じゃない。
ため息まじりに一歩踏み出せばピチャリと水音がした。


「血まみれだな」

「うん」

「おいで」


両手を広げれば、迷いなく素直に胸に収まる身体。
濃厚な鉄の臭いを嗅ぎながら強く強く抱き締めた。

そっと背に回される腕と満足げな吐息を聞いて、そのあまりにも子供っぽい仕草に可笑しくなる。
大好きな黒い髪を撫でてくすくす笑えば抱き返す腕が強くなった。
全く、世話の焼ける弟だ。


「シャワー浴びなきゃな」

「うん」

「時間が空いたし、その後は部屋でアルバムでも見るか?」

「うん」


なら早く綺麗になろう。
部屋を出て、廊下を腕を引きながら歩く。
通りがかった使用人に掃除を頼み、それから後でオレの部屋にティーセットを運ぶよう指示を出した。紅茶を飲みながらのんびりアルバムを眺める1日……うん、悪くない。

どことなく上機嫌に口元を綻ばせるイルミにひと安心して、ふと自分もひどく汚れてしまったことに気付く。

あー、またスーツ新調しなきゃな。



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