雇われあにき



「なまえ、デートに行かないか?」


なにこれ流行ってんの?

仕事の呼び出しで向かった先、依頼主に開口一番そんなことを言われて某奇術師のにやけ面が脳裏を過る。
新手の嫌がらせか何かだろうか。先日オレを騙したあの男を顔が変わるくらいボコボコにしたばかりなのに。

何故かドヤ顔な依頼主にイラッとするも、ここでブチ切れちゃ大人気ない。
ジョークはちゃんと受け流さなければ。


「流星街の出身者は知らないのかもしれないがデートってのは恋人同士のすることだ」

「いいや、恋人でなくてもデートはできる」

「同性の友人同士でデートが許されるのは若い女くらいだぞ」

「ふ、知らないのかなまえ?恋人にしたい相手を食事に誘うことも立派なデートだ」

「依頼がないなら帰る」

「待て」


来なきゃよかった。

踵を返し出口へ向かうと、案の定腕を掴まれてため息が出る。
長い付き合いだが、この男も大概趣味が悪い。まだヒソカよりは理性的だと認識してるものの頭のネジはかなり弛んでる自己中野郎なのだから。

そんな面白味もないジョークを言うためにわざわざ依頼として呼びつけたのなら怒るぞ。こっちは数ヵ月ぶりに弟に会いに行こうと思ってたんだ。それを邪魔しようものなら依頼金倍額でとってやる。


「…………クロロ」

「2割は冗談だよ。依頼はちゃんとある」


低い声で名前を呼べば、男……クロロは肩を竦めて1枚の紙を見せた。
2割って何だよ。


「大富豪が開催する立食パーティー…ね。で?」

「世界的にも稀少な宝石を使った指輪……、通称“女神の涙”。このパーティーの目的はそのお披露目も兼ねて行われるらしい」

「幻影旅団の団長サマはそれが欲しいと」

「あぁ。一緒に盗りに行ってくれ」


こんな可愛くないおねだりされてもなぁ。
オレの本業は暗殺であって盗賊ではない。幼い頃からの知り合いってことで多少融通はきかせてやっても構わないが最近コイツからの勧誘がしつこいし迷う。
面倒だから断ろうかな


「…………悪いけど」
「依頼の報酬はベンズナイフ3種とジャポン刀で曰く付きのものを2本、世界で5つしかないテディベアと古書を2冊譲ろう。もちろん金も払う」

「パーティーの日時は?」

「3日後だ」

物に釣られるオレにクロロは笑みを深めた。
こういうオレの特徴を完全に掴んで取引を持ちかけてくる所が厄介なのだ。敵対するつもりがないから弟達をだしにすることはないが、腹の中では何を企んでるかわかったもんじゃない。
絶妙なラインでオレの欲しそうなものをチョイスする奴の頭脳がストーカーじみてて怖いと思ったのは内緒だ。

もちろんベンズナイフは父に、刀は祖父に、テディベアはアルカに、古書は自分にである。
我ながら単純すぎてため息が出そう。


「それで、なまえにはオレのパートナーとして来てもらいたい」

「女装しろと?他の団員に頼めよ」

「生憎他の仕事に行っていてね」

「……なら仕方ないか」


男にしては細いし顔も中性的だから女として潜入することもたまにある。
いい気分ではないが母さんの趣味で着せ替え人形になるよりは抵抗がないので渋々了承した。仕事は極力選ばない主義。

それにクロロの依頼は退屈しなくて嫌いじゃないから。
旅団に入るつもりはなくても手を貸すだけなら少し積極的になってもいいくらいだ。調子に乗るから言ってはやらないが。


「いいよ。専門外だけど受けてあげる」

「そう言ってくれると思っていた」


にこやかに握手を求める旧友にこちらも笑みを返すと、握った手を引かれて抱き締められた。
相変わらずスキンシップの激しい奴だな。


「新しい本が手に入ったんだ。今日は泊まっていくだろ?」

「あー…そう、だな。そうする」

「仕事までまだ3日もある。準備がてらゆっくりしていくといい」


え、それまで泊んの?
最近外泊が多いってイルミが拗ねるんだけど……でも仕事だから仕方ない、か。
3日も準備がいるとはそこそこ警備の厳しい処なんだろう。頼まれた事だけをこなすオレには関係のないことだ。
何かと側に置きたがるこの男の心裏など知る由もない。

昔から変わらない笑顔でしっかりオレの肩を抱くクロロに、今度こそオレは深い深いため息をついた。


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