non title。(土天)



友情が境界線を越える時、何て、ドラマやマンガじゃあるまいし。ないに決まってる。

友達は、友達だから、友達なのだ。きっとそうだ。











報道部に籍を置いているという事実は周囲にとっても都合が良いらしい。
写真を売ってくれ、あの人の情報は何かないか。個人特定で特集を組んではくれないか、等、一部のファンに因る問合せが激しくなった。コンクール後は更に増加の一途を辿っている。

そういった生徒が連日あまりにしつこいので、部室前に目安箱を設置。これで様子を見ようと部長が提案した。

当初は一週間、間を置くつもりで居た。
当日から意見や要望が殺到する可能性はあまりに低い。周りだってきっと、様子を見て、誰かが動いて、漸く何人かが書いてみるくらいだろう。
写真が欲しければ直接部員に交渉する以外ないのだから、そういう生徒が多い現状、7日間で数枚投函されれば良い方だとのんびり構えていたのだ。



それが、設置した箱が溢れ返って、もうお腹いっぱいだと苦しそうにしていたから、話は別になってしまった。
元々、報道部が勝手に始めた事だ。騒ぎになるのは部室内だけ。

一体何事かと部員達が恐る恐る紙を開いて、全然が唖然とした。




「土浦梁太郎に、付き合っている人はいるか調べてください」
「土浦くんと、……さんの関係が知りたい」
「土浦の特集を、」
「つち……」
「そこまで。これは全部同じ人物の仕業だろうから、一枚にまとめて却下して置いてくれるかい、菜美」
「って、私ですか」




半ば押し付けるように中に入っていた紙を全部ぎゅむと渡される。
不快だとは思わなかった。ただ、こんな熱烈なファンが彼に居た事が意外だった。
それから、愛が方向性を見失って、ストーカーになってしまわない事をだけを強く願う。
筆跡を観れば随分判りやすかった。確かに、それは同一人物の。
女生徒だろう。可愛らしい、丸みを帯びた小さな字だった。
時折見掛ける別人を装ったものも、癖が同じで直ぐ判別出来る。

自分から動けない理由があるのだろうか。
わざわざ、報道部に依頼したこの人は。


天羽は言われた通りに何枚か眼を通して行く。
中には、天羽の名前を記したものもあった。
一瞬だけの驚愕。
いいや、驚く必要はないじゃないか。
この子は勘違いをしているのだから、それを正してやればいいのだ。

友達同士の仲が良くて、何が悪いのか。
土浦と、天羽はそれ以上でもそれ以下でもない。
きっとそうだ。そうに決まっているじゃないか。
彼女は憤慨する。



「部長、ちょっと、本人に確認とって来ていいですかね」
「ああ、先刻の目安箱の話なら、君が自分の身を守る為に必要な事は何でもしたらいいよ」




許可を得て、天羽は部室を飛び出す。
本当は取材の際に使用するものだが、こういう『証拠』が必要な時にはとても役に立つレコーダーも装備済みだ。





「土浦くん、ちょっといい?」



練習室の名簿に名前を発見して、直ぐ様その部屋の扉を叩く。
あの質問者は答えを急いでいる。早く、聞き出して解答を張り出して置かなければ。
勘違いが進行して仕舞う。




「何だよ、いきなりこんなとこまで押し掛けて来て」
「単刀直入に言うけど、私達ってさ、友達だよね?」
「……………は?」
「いや、だから、」





此所で土浦がはっきり言えばそれだけで、録音は終わって、確認も録れて、それで良かった筈だった。
それなのに彼は何故か困ったような表情でこう返した。




「お前がそう思ってるなら、それでいいだろ」
「何、それ。だったら、土浦くんにとって、私って何なの?」
「……お前今、レコーダー持ってんだろ。いいのかよ、言っちまっても」




土浦が何を言うつもりなのかは解らない。ただ、何か爆弾を落とされて仕舞いそうな気だけはして、持っていた録音機を切る素振りだけして見せる。

もしかしたら、友達だなんて思っていたのは自分だけで、彼には変な女だとか、ただの報道部とか、そういう感情しか持たれてなかったのかもしれない。
少しでも後ろ向きに考えればそこから悪い方向に進むのはひどく安易だった。
考えないようにする為に、土浦の言葉に意識を集中させる。ひどい矛盾。
吐き出される言葉は先程まで脳裏に描いたそれだという可能性も否定出来ないのに。




「……やっぱ、止めた。止めようぜ、今は」
「ちょっと!さっきから、何なの」
「雰囲気って大事だろ。それにお前目茶苦茶機嫌悪いしな。ほら、眉間に皺寄ってるぜ」
「え、嘘」
「ほんと」




ぐりぐりと眉間を指先で押されて、天羽は黙り込む。ああ、ほら、こういう所が、

友達同士のスキンシップだと言い張れたなら、良かったのに。
近付いた体温に急激に身体中の血液が上昇したように頬辺りが熱くなる。


何を、言おうとしたのか、今直ぐに聞き出したかった。
思えば思う程、ぐるぐると。

何時までも脳内が、落ち着かない。遅れてそれは、痛みに成る。





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