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魔法薬学の授業のために教室へ行くと授業はもう始まっていた。やや冷たい目線の中、暖かい表情をしたスラグホーンが微笑んだ。
やっぱり優しいお爺ちゃんだ。お爺ちゃん先生って呼ぼう。あ、でもダンブルドアもお爺ちゃんか。



「あ、すみません遅れちゃって」

「構わないさ、キミ名前は?」

「レディー・エジワールです」

「・・・キミ」

「はい?」

「ずいぶん派手だね。まぁいいさ、さあさあ授業を開始しよう!」

「ははは…」



苦笑いをするとオルガに手を振られたので向かった。隣にいる人物に睨みを効かせる。ここの教室にいるのにはおかしい人物だ。


「ランドールなんであんたがここにいんのよ、魔法薬学は『優』を取らないと授業できないんじゃないっけ」

「睨むなよ俺も出たくて出てるんじゃないんだ。それがスラグホーン先生は『良』の生徒も感激らしくて、スネイプに無理矢理」


レディーは頭をかくランドールに顔を引き攣らせた。ランドールは少し離れた場所にいるドラコをチラリと見た後レディーの耳元で囁くように言った。


「なあレディー、お前ドラコと喧嘩したわけ?全然一緒にいねぇじゃん」


オルガが物凄い形相でランドールを睨みつけたのはわかった。舌打ちするオルガに苦笑いをしながら、ランドールに目だけ向ける。


「・・・別れたのよ」

「・・・!?」


沈黙が走り、ランドールが口を開こうとしたがスラグホーンの言葉で遮られた。


「今日はいくつか魔法薬を用意しておいた。何の薬かわかるものはいるかね?」


ハーマイオニーは素早く手を挙げた。相変わらずだ。その光景をぼーとしながら見つめる。あいにく授業をするような気分じゃない。


「君名前は?」

「グレンジャーです」

「この薬は、“真実薬(ベリタセラム)”真実を語らせる薬です。そしてそれは“変身薬(ポリジュース薬)”次はこの薬、名前は“魅惑万能薬(アモルテンシア)”強力な愛の妙薬です。惹かれるものによって香りが違います・・・私の場合は、刈りたての芝生や、羊皮紙の香り、スペアミントの歯磨き粉」


教室にクスクスと笑い声が響くとハーマイオニーが一歩下がった。今度ハーマイオニーにスペアミントの歯磨き粉プレゼントしよう。


「魅惑万能薬は実際に愛を作りだすわけではない。だがこの薬は強烈な執着心を引き起こすのだ・・・よっておそらく、この教室では一番危険な薬と言えよう」



パンジーをはじめ女子生徒が魅惑万能薬に誘惑されるように近づくと、スラグホーンは音をたてて閉めてしまった。


三年の時ランドールに飲まされたのを思い出して口元が緩んだ。あと時の話はオルガに後から聞いた。
ドラコはすごく必死だったって。
それが嬉しくて、胸がバクバク音がして、夜寝れなくなったのも覚えてる。

でも、今となっては別れの傷をえぐるはかない思い出だ。




「先生、そちらの薬はなんですか?」

「あぁこれか、これは大変興味深い代物だ・・・名は」


一人の女子生徒が小さなビンに入った薬に目を向けた。レディーもそれに目を向けると、見たことのある薬に口から言葉が自然に出た。



「フェリックス・フェリシス」

「そうだMS.レディー、よく知っていたね。もっと一般に知られている名前は」

「幸運の液体」

「そうMS.グレンジャー。幸運の液体だ、調合を間違えれば大惨事、一口飲めば全ての計画が成功に傾く」



ドラコが反応したのはわかった。見たわけではないが、感覚がそう訴える。
スラグホーンは付け足すように言った。


「薬の効き目が切れるまではな。さて、今日はこれを諸君に差し上げよう。幸運の液体の小ビン一本、今日の授業で“生ける屍の水薬”を調合できた者に与える。作り方は教科書10ページに載っている」


生徒はスラグホーンのもつフェリックスフェリシスを直視した。幸運が訪れるのだ、欲しいのは当たり前であろう。私にも幸運が訪れないだろうか、彼と真剣に話ができる運が。



「言っておくが―…この褒美に価する成果を上げた生徒は一人しかいない。ともあれ幸運を祈る。では始め」



一斉に動き出したのでレディーも用意を始めるとオルガに肩を捕まれた。


「なんでアレ知ってたの?」

「フェリックスフェリシス?」

「そう、それよ」

「義兄のルーファスが読んでた本に載ってたのよ。こんな薬、あれば最高だよなってね」

「なるほどね」

「さっさと作っちゃおう」

「そうね」



さっさと作っちゃおう・・・そう言ったものの、全く作れる気配が感じられない。黒くなるはずの鍋は綺麗なオレンジ色をしている。

オレンジ色の液体を見て三年生の時の実験を思い出した。ドラコと組んだあの時、私はドラコにろくに協力しないでオレンジ色の液体を発生させたドラコと喧嘩したんだ。

全てはあの時から始まった。私とドラコの恋の出発点は、あのたわいもない喧嘩が原因だった。


「…っ」



視界が歪んで見えると思ったら涙が鍋の中に落ちていた。オレンジ色の鍋は色が変わって純白になっていく。あぁもう失敗だ。さよなら幸運の液体。



「これはこれは・・・」



スラグホーンが横から鍋を覗きこんで興味深そうに頷いた。


「な、なんでしょう?」

「レディー、キミ、この魔法薬で純白を出すことの意味を知っているかい?」

「いえ、全く。失敗って意味ですか?」



スラグホーンはレディーの問いに首を横に振ると、微笑みながら近くにあった容器にその純白の液体を容れた。


「違うよ、純白は『メシア』…つまり『救世主』だ。キミは誰かの救世主になるんだよ」

「メシア・・・」

「薬品は失敗みたいだが面白いものが見れた、これ少し貰っていくね」



スラグホーンは鼻歌を歌いながら他の生徒の元へ歩んで行った。自分で言うのもなんだが純白の液体は本当に綺麗だ。
そう言えば、オリバンダーに選んでもらった自分の杖の意味も救世主だった。

私は誰かを助けるのだろうか?


ドラコの方を見ると一瞬目があった気がした。

別れた本当の意味を知りたい。
また一緒にいたい。
ねぇ、ドラコは私に助けを求めているの?だから私の杖も、この鍋の液体もそう語っているの?


三年生に戻りたい。くだらないことに笑っていた日々に。



(あの時は、あなたが一緒に笑ってくれたもの)

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