部屋に着いたレディーは真っ先に羽ペンを手にした。白紙の紙を広げペンを走らせる。
送り先はもちろんドラコだ。ファミリーネームが変わったことを伝えなくては。
ドラコへ
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いろいろあって
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私はエジワールになったわ
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お母様とはなんとか
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やっていけそう…
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早くドラコに会って
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話しがしたいわ
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それじゃあ、新学期で
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レディー・エジワール
「よし・・・!」
ペンを置いて梟に手紙を持たせて外へと放った。外の天気はどんよりとした曇り空。雨でも降るのではないかと思いながら窓を閉めた。
「嫌な空ね」
数日経ってドラコから手紙の返事が返ってきた。
心を弾ませながら開き手紙に目を通したが、手紙に書かれていた文字を見て、腹の底に鉛が落ちたような感覚に陥った。
紙を持つ手と同じように震えた声で言ったのだ。
「なんで・・・」
エジワールへ
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別れよう。
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ドラコ・マルフォイ
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新学期になった。
ホグワーツへと向かう汽車の中、普通ならば新学期に胸躍らせるはずであろうが、スリザリンのコンパートメントからは啜り泣く声が響き渡っている。
泣いているのはレディーだ。その親友であるオルガは目の前に座り肩をさすっている。
「どうしたのよレディー、久しぶりに逢ったとたん泣き出して…」
レディーは黙ったまま、ドラコから送られてきた手紙をオルガに見せた。何度も読み返したため紙はクシャクシャだ。
「手紙?」
手紙を見たオルガは目を見開かせ、一度手紙を畳んだ。
信じられないのかレディーへと目を向ける。レディーはオルガと目を合わせずに自分の手をジッと眺めていた。
「これ、本当なの?」
レディーは声を出さずに静かに頷き、オルガはもう一度手紙に目を通した。自然と自分の手も震えてしまう。
「信じられない…喧嘩でもしたの?」
「…してないわ、いきなりよ」
レディーは必死に涙を堪えていたが、ついに溢れ出てしまった。白い肌をした手の上にポタポタと落ちていく。
オルガは小さな声で手紙を読んだ。
「エジワールへ、別れよう。ドラコ・マルフォイ……」
静かな空間に、聞こえるはずのない涙の雫の落ちる音が聞こえた気がした。
オルガは思い出したように悲しく呟いた。
「マルフォイのお父さんはアズカバンに捕まっちゃったし、何があったかサッパリだわ」
「今何て……?」
突然目の色を変えてきたレディーにオルガはつい後ずさりしてしまった。
「何があったかサッパリ」
「その前よ!!」
「マ、マルフォイのお父さんがアズカバンに捕まった…ってもしかしてレディー知らなかったの!!?」
「知らないわよ!!」
「少し前新聞の一面だったわよ」
その頃はちょうどバタバタしていた時期だ。新聞を読んでいる暇がなかった。
「てっきりルーファスさんから聞いているかと…」
オルガが連絡しなくてごめんねと俯いた。
そう、今までだったらルーファスが何でも教えてくれていた。しかしルーファスはもう近くにいない。教えてくれる人もいなかったのだ。
オルガから話しを聞いたレディーは着くまで暫く頭を抱えたままでいた。
ルシウスさんは大丈夫なんだろうか。ナルシッサさんも、ドラコも新聞に載ったとなれば世間からの目は酷く冷たくなる。
鳥肌が立つ。大好きな人たちに一体何があったと言うのだ。
‐‐‐‐‐
ホグワーツへと着いた汽車から降りてきたのはオルガだけだった。
普通ならば一緒に降りるものだが、涙で目が腫れてるからドラコに逢いたくない、という理由で一番最後に降りると言いだしたのだ。
オルガはため息をついて汽車を後にした。
その頃のレディーといえば、今だに手紙と睨みあっていた。いくら見ても変わらない冷たい文字に胸を痛くしながらも、一体どうすればいいかわからなくなっている。
悩んで思ったこと、それは目がいくら腫れていても、ドラコとはきちんと話しをしなければならないということだ。
いきなり別れを言われて「あぁそうですか」で済ませるような思いは一つもない。それどころか一発殴ってやりたいくらいだ。
レディーは散乱する化粧品をカバンへと詰め込み、コンパートメントを後にした。
汽車の外にはもう人がほとんどいなかった。
左右を見るとプラチナブロンドの髪をした人がいる。
心臓が音を立てて跳ねた。ドラコだ。
一呼吸置いた。カバンを持つ手は妙に力が入ってしまう。
「ドラコ・・・!待って!」
なんとか出た声でドラコを呼ぶと、なんの笑顔も見せずに言い放ったのだ。
「僕は今急いでいるんだ、また後にしてくれないか」
「エジワール」
「え・・・」
ドラコはそれ以上何も言わずに早足で歩いて行ってしまった。レディーはそれを追うことも出来ずに、ただただ呆然とその姿を見ることしかできなかった。
冷たい感情が渦巻いて、腹の底へと鉛のように落ちてきた。
その気持ちに堪えることは出来ずに、頬は涙で濡れていく。
カバンは無意識に落としてしまっていた。中に入っていたリップクリームや、マニキュアがコロコロと転がっていくのがわかる。
「名前で読んでよ…目を合わせてよ…ドラコ…っー」
彼は私の名前を呼ばなくなってしまった。
足の力が抜けて地面へと膝を着くと、優しげな声が自分の名前を呼んでくれた。本当に呼んでほしい人ではなかったが、でも大好きな友人だ。
「「レディー…どうしたの?」」
それはハリーとルーナだった。
ルーナを見たレディーは抱き着ついて、ついに大泣きをしてしまった。
あの手紙本当だったの?
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