目を覚ました私は、一人ぼっちだった。
初めて見る左手の薬指の指輪。それを見た瞬間に涙が溢れ出て止まらなくなった。
「ドラコ・・・」
一年生の時から毎晩見ていた「さよなら」と告げる夢の人物は、ドラコだった。
夢はずっと教えてくれていたのだ。彼がどこかへ行こうとしていることを。6年間もの間ずっと。
ある研究者は、夢の中の事は、何かを象徴するものとして位置づけているという。昔の人は、神のお告げとも。
私はそれに気づくことができなかった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐
周りを見渡した。誰もいない保健室はとても静かだ。太陽の光が窓から入りこんできて眩しい。
「お!起きたのかレディー」
朝食だぞ、と言って料理を運んできたランドールは、ベッドの横の椅子に座った。相変わらずの朝ごはんがトレーにのっている。
「ランドール、ドラコは?」
「・・・」
「行ってしまったのね」
「レディー・・・」
「ドラコ、私に忘却術をかけていったわ、気絶してたみたいだけど何となくわかるの」
ランドールは訳が分からなく頭をひねった。確かにレディーは忘却術をかけられたと言った。しかしレディーはドラコのことを覚えている。一体どういうことなんだ?
「飲み込めてないわねランドール。私が忘却術をかけられたのに、ドラコのことを覚えているのが不思議なのね」
「あぁその通りだ。一体どういうことなんだ?」
「このブレスレットのおかげよ。魔法を一度だけ跳ね返してくれるの。ドラコは私を一度気絶させるために杖を振るった。でもその魔法はブレスレットで跳ね返せなかった」
「?」
「この商品ね、20%の割合で効果を出さないときがあるんですって」
レディーはケラケラと笑った。ランドールはまだ状況が飲み込めず、ブレスレット?効果を出さない?と、頭を傾げている。
「ドラコが一番目に放った無言呪文にはブレスレットは効果を出さなかったから、私は壁に飛ばされ気絶した。でも、二度目の忘却術の方には効いたのよ。だからドラコを忘れてないの。あの馬鹿、私から自分の記憶を消すつもりだったんだわ。ほら、これが説明書よ」
レディーはポケットから半分に折られたブレスレットの説明書をランドールに放り投げた。クシャクシャになった紙を広げ読み上げる。
「この度は魔法返しブレスレットをお買い上げ誠にありがとうございます。使用法をしっかりと理解の上使用下さい。
‐当商品の使用法‐
・当商品は魔法を一度だけ無効にする商品です。
・20%の割合で効果を出さない時があります。以上の点を踏まえ使用下さい。
w.w.w
本当だ。そういうことか…ってレディー、起き上がってどこ行くんだよ?」
ベッドから足を降ろしたレディーは背を向けながら応えた。
「私は彼を探しに行く」
「ダメだレディー!だってドラコは…」
「わかってるわ。私を避けだした意味も。別れると告げた理由も…全て、私を守るためだって」
「レディー…」
「ランドール、ドラコは私の全てよ。自分自信を失っているようじゃ。幸せにはなれない」
じゃあね。と、微笑するレディーはヒラヒラと手を振って保健室から出て行ってしまった。左手に光る指輪が眩しい。
「俺は約束を守るよドラコ」
レディーの命は俺が必ず守る。
‐‐‐‐‐‐
天文台までの階段は長い。でもこんな階段もなんだかんだで好きだった。天文台自体が好きだからだと思う。
天文台には三人いた。ハリーにハーマイオニーにロン。見慣れた人物だ。天文台の階段を上がりきらずに、話しを盗み聞きした。
ハリーの声が響く。
「学校にはもう来ないよ。ダンブルドアがしようとしたことをする・・・」
「そんなの一人じゃ無茶よ、私達も行くわ」
「そうそう、私もね」
「「「!?・・・レディー!!」」」
いきなり現れたレディーに三人は驚きを隠せないようで、目を丸くしている。座っていたロンはそこから滑り落ちた。
ハーマイオニーが一歩前に出て慎重に尋ねた。
「レディー、さっきの言葉は一体・・・」
「わからない?私もその旅に行くってわけ」
レディーは腕を組んでハリーの隣へと移動した。ハリーは眉を寄せている。
「命の危険もあるんだ、覚悟は出来てるの?」
「ええ」
レディーは真剣に胸を張って目を見据えた。ハリーはしばらく黙り込んだあと手をユックリと差し出した。
「戻れなくなるかもしれない」
「わかってるわ」
「運が悪ければ死ぬ」
「死ぬ覚悟よ」
手を掴んで互いに微笑みを交わした。遠くで不死鳥が優雅に飛んでいる。ダンブルドアがいなくなり、不死鳥は自由な存在になったのだ。相変わらず美しい生き物だ。
「あ、レディー・・・」
「・・・?」
「ドラコが、たった一人しかいないのに、愛していたのに、僕は忘却術を使ってしまった。って泣きながら言ってたんだ。なのに何故レディーは覚えてるんだい?」
「そう、そんなこと言ってたのね。このブレスレットのおかげよ。簡単に言うと魔法をはねかえせるの」
「それフレッドとジョージの店のだろ!?」
ロンが声をあげレディーへと近づいた。手にしていたブレスレットをまじまじと見つめている。
「これ高いんだぜ!どうしたの?」
「あなたのお兄さんにもらったのよロン」
レディーはブレスレットに触れたあと、左手の薬指にはめ込まれた指輪を見つめた。ロンは信じられないと言った顔をしながらそれを見つめている。
「結婚しようって約束もした。約束したなら、果してもらわなきゃ」
レディーのか細い声に、ハーマイオニーが優しく応えた。
「一緒にがんばりましょう」
何度も頷いて天文台からの夕日を見つめた。夜になったらまたきっとたくさんの星が出る。
それを彼とまた見たいから、私は来年彼を探す旅に出る。そして、彼を閉じ込める闇を打ち壊すために。
‐sixteen story END
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とある町の夜明け、一人の少女はいつも履いているヒールのある靴を止め、スニーカーを履いた。長く伸びた美しいブロンドの髪をポニーテールにして縛り、左手には指輪、首元にはバラのネックレスを付け、深呼吸をして家を後にした。
NEXT seventeen story…―
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