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クリスマスも終わり、ホグワーツに戻ったレディーは特に何事もなく生活していた。クリスマスは死喰い人に襲われて散々な目にあったが、結局誰も死なずに済んで正直なところホッとしている。双子との別れは悲しかったが、あの二人は街で営業しているから普通に会えるし、なんてことはない。

冬休みが終わろうといつもと何の変わりのない日々だ。そう、今までと同じ。ドラコと別れた事実も、決して変わらない。


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いつものように朝食を済ませ、オルガと別れ一人図書室に行き本を読んでいた時だ。
突然大きな音を立てて開くドア。
図書室の先生が「静かに」という声すら聞かずに、レディーの元へとかけてきたのは、オルガでもパンジーでもなくランドールだった。


真っ青な顔をした彼はこう叫んだのだ。


「レディー!ドラコが……ドラコがポッターと喧嘩して大怪我を・・・!!」

「え・・・?」



物語は加速する。―



‐‐‐‐‐


ドラコとハリーの仲の悪いのは今に始まったことじゃない。私と会話をする前にはすでに犬猿の仲だったし、ドラコはハリーの後ろ姿を見たらすぐに悪口を言う。
人はドラコがハリーを嫌っているというが、私は違うと思った。ドラコはハリーが羨ましいだけだ。「特別な男の子」「才能ある子」「優等生」「例のあの人に勝った子」ハリーにかかる全ての肩書きが、ドラコのプライドを刺激していた。

そんな二人の仲が良くなることはない。それは私を含め、ホグワーツ生全員が同意することだ。そんな二人が、杖を振るいあってお互いを殺そうとするような、殺意のある喧嘩をしたのは…初めてだったのだ。

医務室に走って向かう最中、ランドールは息を切らせながらこう教えてくれた。


「ドラコの体からは血が溢れて、そこらじゅう傷だらけ。スネイプがいなかったら…死んでたって。」


思わず鳥肌が立ってしまうような言葉だ。一体どんな状況でそうなってしまうのかわからない。わからないが、今言えることは生きていてくれてよかったということだ。もし殺されていたら、きっと私がハリーを殺していた。


大急ぎで保健室へと走る。寒い冬なのに、体の血が登っているように暑い。
どこの寮の生徒かわからないが、数名の体にぶつかり、何度も文句を言われた。ごめんなさい。今は止まれない。後で何度でも謝るから、今は走らせて。
そう思いながら、ようやく保健室へと到着した。


―俺は、ここまでだ。


最後に聞いたランドールの声だ。
頷いて行けば、白いベッドの並ぶ中の一つに横たわる男。プラチナブロンドの髪をもつ男はすやすやと眠っていた。

ベッドの隣に置いてある椅子に座り、ドラコの顔に掛かる髪を分けた。


「・・・ドラコ」


呼んでも返事は返ってこない。ただ均等な呼吸が聞こえるだけだ。医務室にはレディーとドラコ以外誰もいない。二人だけの空間だった。
怪我はスネイプが綺麗に治したようで、ドラコもかなり落ち着いている。髪をかきあげても起きずに寝ている。至近距離で見たのは久しぶりだ。綺麗な顔立ちに思わず微笑んでしまう。

前までは何度も見た光景。彼の家で目を開けると、微笑んだ彼がいつも優しく抱きしめてくれていた。


「ドラコ、私はあなたが闇に染まっても…決して怖くないのよ」


ベッドに置かれたドラコの手を握ると冷たかった。暖めるように握り、ドラコの手を自分の頬まで持っていく。
自然と溢れ出る涙、意識もせずに、ドラコの唇に自分の唇を当てて泣いた。

レディーはそのままベッドに体を預けて、手を繋いだまま眠りについた。


ドラコが眠ったまま一粒の涙をこぼしたことに、気づかないまま。


‐‐‐‐‐‐


夢で1人の女の子が泣いていた。声を張り上げて。でも決して嫌じゃない。美しい声。
あぁ、僕はこの声を知っている。
透明な肌も、綺麗に光る髪も、華奢な体も。彼女の全てが、僕の全てなんだ。

だからどうか泣かないで。君を闇には渡しはしない。君に闇は似合わない。

レディー、この世で一番愛おしく、生涯かけて守りたいと誓った人だ。


「…レディー……」


次の日になって目が覚めたドラコは辺りを見渡した。自分が覚えている限りでは、確かポッターと喧嘩になったことだけで、自分がこの場所にいることに関しては知らないのだ。
場所は保健室か?体に傷はないようだが、内臓が少し痛む。
横を見やると枕元にそっと手紙が置かれていた。手紙の裏を見ると綺麗な字で書かれた【レディー】の文字。

ドクンと跳ねた心臓を落ち着かせ、誰もいないことを確認して手紙を開けた。優しい匂いが手紙からする。レディーの匂いだ。


ドラコへ。
体は大丈夫になった?
私がいて迷惑かもしれないけど
今日の夜も会いに行くわ。
ゆっくり休んで。

レディー・エジワール



「レディー・・・っ」


医務室に誰もいなくて本当によかった。僕は自然と涙を流してしまったからだ。どうしようもないほどに、自分の目から溢れ出る涙が止まらない。胸が苦しくなって、今すぐレディーを抱きしめたくなった。

こんなに好きなのに、こんなに愛してるのに、僕はまたレディーを突き放さなければならないなんて、信じたくないんだ。


「レディーっ、………レディー…レディー」



‐‐‐‐‐


命令だった。


簡単な話だ。父上が捕まった。
例のあの人の大切なものを、父上がミスを犯し壊してしまった。例のあの人には同情心や優しさなどない。父上の地位は一気に転落した。
今まで築き上げたものを全て壊すように。


そして例のあの人は僕に命令を下した。
「アルバス・ダンブルドアを殺せ」と。お前にしか出来ない仕事だと。お前は吾輩に選ばれた子だと笑顔でそう言った。
だが僕は知っている。最初から期待などされていないことを。失敗し、父上のように嘲笑い、殺そうとしていること。


レディーに別れを告げるよう勧めたのは母上だ。このまま付き合っていたらレディーを必ず巻き込むことになると。そう真剣に言われた。
もしレディーのことを例のあの人に知られて、僕が任務に失敗したら、見せしめとしてレディーは殺されるかもしれないと。

恐ろしくて気が狂いそうだった。レディーが殺されるかもしれない夢を何度も見ては、その度に吐いた。


別れを告げることは、愛を無くすことじゃない。愛しているからこそ、別れを告げることもある。


母上が泣きながら言った言葉だ。本当に愛しているなら、闇になってでも守れと。その言葉を聞いた瞬間僕は決意を固めることが出来た。
レディーがどこかで幸せに笑っていられるのなら、僕は何でもできる。非情になって、彼女を泣かせることも、一つの愛なのだから。


でも僕は非情になりきれなかった。一度だけレディーを抱いてしまったのだ。天文台でレディーを見たらもうダメだった。溢れる涙を堪えられなくなって気付いた時には抱きしめていた。
無理矢理記憶を奪って、彼女を余計苦しめた。何度謝っても、許されることじゃない。


嫌われて当然のことをしてきた。無視をし、悪口を言い、目が合えば睨んだ。でもレディーは僕を愛すことをやめなかった。ドラコが嫌いになっても私は嫌いにならないと、意思のある目で僕に言い放った。

僕も愛してる。こんなに人を好きになることは、もう二度とないだろう。



(君は僕の全てなんだ)



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その日の夜になった。手紙の通り様子を見に来たレディーに、僕は寝たフリをしていた。そうしないと今にも涙が溢れてしまうから。


「ドラコ、目の下が赤い。泣いてたの?」


反応をしない僕にレディーはひたすら優しく話しかけ続けた。

懐かしい気がした。

何でもない学校生活中、談話室で眠る僕に話しかけてきてくれたあの時に、とてもよく似ている。


「あのねドラコ、私弱くなってるの」


なぜ?。そう聞き返したかった。前話しをしていた時。彼女は勝ち気に言っていたからだ。


―私は強いのよ!


レディーは震える声で続けた。


「ドラコが一緒にいないからよ」


グスッと鼻を啜る音を聞こえる。レディーは泣いていた。涙の雫が僕の顔へと落ちてくる。


「もし死喰い人になっていても受け止めるのに…愛してあげるのに…」


レディーが僕を力いっぱい抱きしめると、マダム・ポンフリーの声が医務室に響いた。優しい体温が離れていく。


「エジワール、もうすぐ消灯の時間よ、寮にお戻り」


暖かかった体温がユックリと消えていった。部屋の電気が消され、誰もいなくなった時。僕は決心を固めた。


レディーの声を聴いて確信した。レディーを守るために今何をすべきかを。


どんなに嫌われたって構わない。


明日僕は
で彼女を


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