足元の土が水を吸っていてぬかるみ、その上をパンプスで無理やり走るものだからレディーは相当苛立っていた。いくら足を上げても土が引っ張るのだ。
途中暗闇の中で魔法のぶつかり合う音が聞こえる。戦いが始まってしまったことに焦り、急いで走って行くと、真ん中でジニーを庇いながら死喰い人の攻撃を防ぐハリーを見つけた。レディー自身も真ん中へと突っ込んで行く。
「レディー…!!」
「無駄口聞かないで!!集中しないと殺されるわ…よ…」
レディーが杖を向けた人物はベラトリックスだった。レディーは目を大きく見開いたのでベラトリックスも何かと思いレディーを見返す。
ベラトリックスは酷く驚いていた。目の前にいる少女が違う人間に見えたのだ。ベラトリックスの口から出た言葉は、聞き慣れていたようで慣れない人の名前だった。
「お前…ロデオか?」
「・・・!」
ロデオ。レディーの父親の名前だ。ルシウスの話によると私と彼はたいそう似ているらしい。ベラトリックスは今目の前にいる私を間違えて見ている。かつて自分を愛した男と。
「違うな、ロデオはずいぶん前に私が殺したはずだ。サリアでもない。お前もしかして、あの二人の間に生まれた子供か?そっくりじゃない」
「よく言われる。貴女はドラコの叔母様でしょう?教えて、ドラコは本当に死喰い人になったの!?」
「そんなの今死ぬあんたに言う筋合いは…」
「レディー!!!」
ベラトリックスが言葉を言いかけていた時、リーマスがレディーの前に立ちはだかった。ベラトリックスは舌打ちをして闇になり空へと飛ぶ。思わずその場に崩れ落ちてしまった。
恐ろしい程の殺気と魔力だ。サリアとはレベルが違う。
「先生・・・!」
「レディーにハリーにジニー、大丈夫だったか!?」
リーマス先生がハリーの肩を掴み息を切らせた。無事でよかったと息を吐くと、遠くで爆発音が聞こえた。
場所はウィーズリー家がある所。
アーサーは「モリー」と小声で呟き家の方へと走って行った。
「…フレッド…ジョージ」
レディーも急いで後を追うと、さっきまでいたその場所は炎を上げて燃えていた。美しいとも思えた家具も、家も、すべて燃えている。愕然とするモリーの体をアーサーはきつく抱きしめた。
レディーはフレッドとジョージの元に歩み寄り二人の背中に手を置いた。二人の体は少し震えている。無理もない今の一瞬で二人は地獄を見たのだ。
「…何もできなくてゴメン…」
「レディーが謝ることじゃないよ!」
「そうそう、ちょっと…ってよりかなりショックが大きいけど、でも…」
「「生きてるから」」
二人は振り向いて切なげに微笑んだ。家は目の前で燃えているのに、笑顔を向けた二人にどうしようもないほどに胸が熱くなって、脚の力が抜けてレディーは地面に潰れてしまった。
「・・・ごめん、ごめん、ごめん」
「なんでレディーが謝るのさ」
「レディー泣かないで」
私は強いと思ってた。みんなを守れると思ってた。でもそんなことは一つもなくて、こんなに目の前で起きていることすらも、私の力ではどうにもできない不甲斐なさにどうしようもないほどに腹が立った。
(やっぱり私は)
どうしようもないほどに弱いんだ
傍にあなたがいないから。
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